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転機を迎えるたびに関係を見直す、卒婚でうまくいっています。

  • 撮影・岩本慶三 文・後藤真子

自信を持って輝けという夫、悩みを理解してほしい妻。

東京で同居する時間が増え、自宅の近くをふたりで散歩も。卒婚を経て新しい関係に。

立美さんが石川県の県議会議員となってからは、東京と金沢でそれぞれの生活が始まった。社会に出て、責任ある立場で活躍する妻を、守穂さんは魅力的に感じ、まぶしい思いで応援していた。ところが立美さんの気持ちは……。

立美 離婚しようと思った時が、1回だけありました。主婦から突然議員になって、最初の頃。議会では知らない言葉がぽんぽん出てくるし、何をしていいかわからない。「先生」と呼ばれて戸惑い、自宅と議会の間を、人と目を合わせないように下を向いて通うという時期があったんです。4年の任期が早く終わればいいと思う毎日でつらかった。その気持ちを守穂に「わからない」と言われ、いちばん身近な人だからこそ、ショックでした。

守穂 僕は本当にわからなかった。せっかく当選したんだ、思いっきりやりなよと檄を飛ばして。鬱の人は励ましちゃいけないって言いますよね。まったく的外れなことをやったと、後でわかりました。

立美 その時は、初当選の女性議員と出会って連絡を取って、情報を共有するなどして乗り越えることができました。でも、議員を続けていく上では、守穂にいろいろ助けられた部分もあります。辞書代わりというか(笑)。

「お互いに、安心できる相手。それが大きいですね」(立美さん)

「僕はちょっと物足りない。もっと外で活躍してほしい」(守穂さん)

男女共同参画についての取り組みなど、近年は夫婦で携わる事案もある。息はぴったり。

守穂 こうして振り返ってみるとふたりの関係は変わってきたね。僕は視野がすごく広がった。自分とは違う、こんな人がいるんだなと。もともと持っていたエリート主義的な考えがこの人を知って変わりました。でも、まったく合わないんだよなあ。好みや趣味は。

立美 うん。私は山歩きや農作業が好きだけど、守穂は全然好きじゃない。

守穂 俺、シティボーイだから(笑)。

立美 守穂はともかく前向きで、手抜きをしないし、頼りになります。でも100%頼っちゃいけないと思っていて、60%ぐらいまでにしようと。半分より少し余計に頼らせてもらうけど、残りは自分で決める。そういうふうに考えられる自分になれました。

守穂 東京と金沢で別々に暮らして卒婚状態になり、今はまた東京で一緒に暮らす時間が増えている。財布は別だし、お互いの時間を大切にしているところ以外は卒婚をやめかかっている感じ。僕はけっこう不満です(笑)。家にいるより、もっと前に出て、仕事なり活動なりしてほしい。物足りない。それと、僕に対して一歩譲っているところがあると思う。

立美 あるかもしれない。

守穂 「そこで譲るなよ、もっと対等でこい」と思うことがある。

立美 なんでだろうね。全体的にあなたのほうが私より上の部分が多いかな、というのが私の中にあるみたい。でも、安心できる相手です。それは私にとってはいちばん大きいな。

守穂 それは僕も同じ。でも、今までと同じように、これからもふたりの関係は変わるかもしれない。それも楽しみだと感じる。これが「卒婚」の醍醐味かもしれないね。

広岡立美(ひろおか・たつみ)●1952年、石川県金沢市生まれ。富山大学教育学部中退。守穂さんと結婚後は専業主婦として5人の子を育て、1999年より石川県議会議員を3期務める。

広岡守穂(ひろおか・もりほ)●中央大学法学部教授。1951年、石川県金沢市生まれ。東京大学法学部卒業。著書に『「豊かさ」のパラドックス』(講談社)、『男だって子育て』(岩波書店)ほか。夫婦で共著も。

『クロワッサン』964号より

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