冒頭で為時(岸谷五朗)の妾(しょう)・高倉の女……なつめ(藤倉みのり)が臨終の床で、得度を受けている。亡くなる前に剃髪し、仏門に入ることで、極楽浄土への往生を願う儀式だ。
なつめは出家得度して、別れた夫のもとにいる娘にも会えて。穏やかな臨終でよかった……伴侶を最期まで慈しみ、愛で満たされたという気持ちで彼岸に旅立たせるなど、誰にでもできることではない。為時に拍手を送りたいし、父と妾の関係を尊重して動いたまひろ(吉高由里子)も偉い。
翻って『源氏物語』第40帖・御法、光源氏の妻である紫の上の最期を考える。同じように娘(実の娘ではない)・明石の中宮が見舞ってくれるものの、なつめのように心穏やかな、幸せそうな様子ではない。
為時となつめの姿を目にしたまひろがあれを書いたとすると、これからドラマの中で一体どんな経験をするのか……いや、まひろが見たのがたまたま夫婦の着地点であっただけで、これまで彼女は妾として、心穏やかではない長い時を過ごしてきたことだろう。嫡妻のちやは(国仲涼子)が密かに溜息をついたのと同じ数、あるいはそれ以上の夜を経てきた筈だ。そこに思い至り、書いたのかもしれないとも思う。