くらし

考察『光る君へ』15話 ききょう(ファーストサマーウイカ)と中宮定子(高畑充希)初対面!清少納言爆誕、呼び名の謎解明

大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00〜)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。15話「おごれる者たち」では、娘の定子(高畑充希)を中宮とし、藤原道隆(井浦新)の権力が増していきます。そして、定子に仕えることが決まったききょう(ファーストサマーウイカ)は「清少納言」の名を授かります。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載15回です。
  • 文・ぬえ イラスト・南天 編集・アライユキコ

殴られる弟、殴る兄だったのに……

荒れる道兼、射る道長。ききょうは清少納言になった/『光る君へ』15話イメージイラスト/南天

冒頭、思うがままに権勢を振るう道隆(井浦新)。内裏から皇太后・詮子(吉田羊)も追い出して、邪魔するものは何もなし。
「なんと思うままにならぬ、我が一生よ!」と叫ぶ崇徳院(2012年大河ドラマ『平清盛』井浦新が演じた)を覚えている大河ファンとしては、ほんのちょっとだけ、よかったですね……と思わないでもない。

我が世の春を謳歌する道隆に比べて、道兼(玉置玲央)は誰かれ構わず、すがれるものにはなんでもすがる状態なのだろう。公任(町田啓太)の家に居座ってしまう。道長が迎えに行ったら酒浸りで烏帽子はないし、直衣は脱ぎ捨て女の衣を引っかけている。公任の家の女房になにかした様子が窺え……荒み切ってしまった。

「この道長がお支えいたします」

殴られる弟、殴る兄であった第1話(記事はこちら)の頃を振り返ると、こんな日が来るとは思わなかった。
この場面に限らないが、ひとを気遣う時の台詞と柄本佑の演技にたびたび第1話、子役(木村皐誠)の頃の三郎を感じる。
道兼といい道隆といい、兄たちが父・兼家(段田安則)と権力に振り回され変わっていく中で、三郎の部分を失わない道長が彼らを、家族を支えようとしているのだ。

実資は道長を信頼している

次男、三男の和解から更に2年経ち、正暦四年(993年)。一条天皇が成長して塩野瑛久が登場。これまでの帝(坂東巳之助、本郷奏多)も美しかったが、また美しい帝だ。

帝が大人になっても、摂政道隆の独裁状態は変わらず……除目で自分の昵懇(じっこん)の者・66人を一気に任官。実資(秋山竜次)が、道隆の弟である道長に「どう思われる」と問い、世の乱れを憂う自分の思いを口にするところを見ると、道長の人柄に信頼を置いていることが窺える。
実資は陣定などでずっと、道長を見守ってきたのだね。歴代の帝に信用され、あの兼家でさえ一目置いていた実資に信頼されるのは、政治家として大きい。

惟規、合格おめでとう

為時(岸谷五朗)「除目で官職をいただけないのも、慣れてしまったなあ」

無職に慣れてきちゃった。自虐ジョークは受け答えに困るよね、まひろ(吉高由里子)も困ってる。第一、慣れないでほしいし。

惟規(高杉真宙)、大学寮の試験合格おめでとう! できる人が結果を出すのももちろん立派だが、もともとできない人が出した結果も素晴らしい。惟規がいつか合格すると信じて、いと(信川清順)が隠しておいたお酒で祝宴。寝かせすぎた味になる前に開封されてよかった。

惟規「琵琶ってなんだか悲しいですね」
為時(岸谷五朗)「まひろの気持だ。黙って聞け」

そうそう。母・ちやは(国仲涼子)が遺した琵琶で、母に習った曲を弾くのだからお祝いですよね。いと、乙丸(矢部太郎)も一緒に、家族みんなで祝う。よかったね……。

高階貴子という人物

一条帝の吹く横笛に、定子(高畑充希)が耳を傾ける場面……一条天皇は詩歌、音楽の才に恵まれ、とりわけ横笛の名手だったとか。『枕草子』にも、一条帝が笛の稽古をしている姿が登場する。師匠と共に繰り返し合奏するご様子は「素晴らしいという言葉が月並みに思えるほどだ」と。
一条帝と中宮・定子は出会った頃と変わらず、仲睦まじいようだ。

しかし道隆の専横が、政治の表舞台だけでなく帝の後宮にも影響する。

「中宮さまも帝を手玉に取って、いい気なものよね」
「この親にしてこの子あり」

えげつない陰口女房さんたち、久しぶり! 内裏に拡がる悪評を素早く察知して素早く対応する、道隆の妻・貴子(板谷由夏)。

「後宮の主としてゆるぎなく、ここにいる全ての者の心(つまり陰口女房たちも)を惹きつけ、輝かなければなりませんよ」
「中宮様が輝けば、摂政様の政も輝きますゆえ」

中宮のイメージアップを図り、ひいては中関白家(道隆の家族)のイメージも上げようという作戦である。さすが内裏勤務経験ある元バリバリキャリアウーマン、この世界の裏も表も熟知している。

高階貴子は、けして高くない家柄の出だ父は高階成忠、大学寮で学び文官となり、第13話(記事はこちら)で宣孝(佐々木蔵之介)が就任したような地方官を勤めた。つまり、まひろの父・為時と、さほど変わらぬ経歴なのである。

第1話から道隆が「貴子は賢い妻なのです」「さすが貴子」と何度も兼家をはじめとした家族の前で口にしていたのは、もちろん夫婦仲のよさの表れだが、中流の出でも貴子は立派なんですよ……と暗に強調していたのではと思っている。そして道隆の妾ではなく嫡妻となることを兼家が許し、その後も貴子を気に入っていた様子であったのは彼女の聡明さと、なによりも内裏での勤務経験を評価していたのではないか、とも。

声がかかったのはききょうだけ

貴子プロデュース・中宮のイメージアップ作戦、教養と才能に溢れた女房を中宮のお傍に置くこと。白羽の矢が立ったのは、ききょう(ファーストサマーウイカ)だった。
念願の宮仕えが叶って、まひろの他にこの喜びを共有できる人がいないから……と、うきうきと訪ねてくるききょうが可愛い。おしゃべりしながらつまむのは、おもたせの干しあんずか。甘いものを真ん中に話が弾む、今も昔も変わらない姿だなと和む。

しかし、話を聞いたあとのまひろの心は重い。

「声をたずねて暗に問う……」

書写したものを指でたどり、そっと読み上げたのは白居易の詩・『琵琶行』だ。
都で名妓と讃えられた女が年を取り、空しく過ごした日々を嘆く身の上話に、詩人が自らの失意を重ねたものである。

ききょうの栄達を友として喜びながらも、理想を実現できず、ただもがくのみの自分の現状を思い溜息をつく……。
しかも、貴子がききょうを見出した東三条邸の漢詩の会では、自分も一緒に出席したというのに、声がかかったのはききょうだけなのだ。「和歌も漢詩もお好みの中宮さまと話ができる者を」という要望なら、自分だって応えられるのに。しかし、父が長く無位無官で結婚してもいない──つまり後ろ盾がない私では無理、さまざまに複雑な思いがあるだろう。

清少納言……素敵な呼び名

歴史ファン、平安文学ファンがみんな心待ちにしていた場面がついに到来。
清少納言と中宮定子の出会い、ききょうと定子、初対面!!

促され顔を上げて、初めて定子を目にしたききょうの感激が伝わる。
(きれい……!)
『枕草子』で清少納言が定子について書いた、

かかる人こそは世におはしましけれとおどろかるるまでぞ、まもり参らする
(こんな方がこの世にいらしたのだと驚いて、見つめ申し上げる)

この一節そのままだ。これを再現したファーストサマーウイカにも、見た目の美しさだけでなく中宮としての威厳まで表現した高畑充希にも拍手。

定子「今よりそなたを、清少納言と呼ぼう」

清少納言の呼び名の謎は、かねてよりあった。父が清原元輔だから「清」はわかる。しかし、夫の橘則光は少納言に任官したことはないのに、なぜ? というものだ。これまで様々な説はあったが、ドラマ内ではききょうの物怖じしない性格から、夫と離婚しているし、元夫は少納言ではないと否定させた上で、

「清少納言……素敵な呼び名ですので、ぜひそれでお願いいたします!」

ぴん、ぴん、ぴーん! と琴線に触れた音が聞こえてきそうな表情と台詞。
出身の家や夫にまつわる名としてではない、私自身が気に入ったのだ。中宮さまから賜った名だ! と喜ぶ流れにした。素晴らしい。
高畑充希とファーストサマーウイカの好演、いい場面だった。

道長と伊周の競べ弓! 

中宮まわりの私的な費用負担を税金で賄うことについての、道長から道隆への苦言に対して、

道隆「こまかいことを申すな」「そういうことを申さぬと思うたから、お前を中宮大夫にしたのだ」

道隆にとっては国庫の財も官位も、自分のために動かすものなのだ。
兼家(段田安則)は第13話で真の政とはと問われ「政は家の存続だ」「その考えを引き継げる者こそが、儂の後継であると思え」と言ったが、家の存続のためになす政とは、こういう意味なのか……? そして兼家は長男・道隆を穢れなき存在にと心を砕いていたが、道隆は彼自身の驕りのために公卿たちの人望を失っている。兼家の腐心、水の泡では……。

それにしても、一条帝といい中宮定子といい、私邸で気だるげに寛ぐ道隆といい、思わず感嘆の声が洩れるほどに雅やかで、なまめかしく美しい画面が次々と出てくる回だった。

そして道長と伊周(これちか /三浦翔平)の競べ弓! 歴史物語『大鏡』で有名なこのエピソードが、この流れで出てくるのか。本作の藤原道長の性格から考えて「我が家から帝、皇后が出る」「私は関白になる」など、言わなさそうだけどなあと思っていたのだ。
それが納得できるアレンジがなされていた。つまり、税金の私的流用を諫めに兄のもとを訪れたが相手にされない。その上、甥っ子の遊戯に付き合わされた。早々に切り上げたくて、わざと外し「では、伊周殿の勝ちということで」と帰ろうとしたら引き止められたので、ますます面倒になり、伊周の願い事をそのままコピー&ペーストする形で「我が家から帝が出る」「我、関白となる」と……。
道隆が焦って「もうやめよ」と競技をやめさせたのは『大鏡』のとおりである。

呪術が信じられているこの時代、願掛けをした上でのこの事態は、我々が考えている以上の大ダメージなのではないか。伊周、ドンマイ! くらいでは帳消しにできぬ気まずさであったろう。

左大臣・源雅信、逝く

あの渾身の呪術から年月が立ち、明子(瀧内公美)の表情がとても柔らかくなっている。道長との夫婦仲はよく、子も身籠っているようだ。第13話で「微笑むことすらなく生きてまいりましたゆえ」と言っていた彼女が、夫と笑みを交わす日を迎えているのか。よかったね。というか、兼家が亡くなったにせよ、あの恨みを溶かした道長すごいね。

そして土御門殿では、左大臣・源雅信(益岡徹)が逝く……癒し枠がひとり退場して悲しい。
「婿殿の出世もこれまでじゃな……」
政治の場での後ろ盾である自分が死んだら、娘婿・道長の出世が止まってしまうと述べ
「不承知と言い続ければよかった」「不承知……(3回も言った)」

愛娘を奪いおってコンニャロという文句を、最期まで述べて世を去った。可愛らしいおじさま貴族であった。お疲れ様でした。

道綱母と紫式部が石山寺で邂逅

さわ(野村麻純)とまひろの石山詣。
気の合う友達同士の旅行、ひろびろとしたロケの景色もあいまって解放感が心地よい。

石山寺で読経するふたりの場面は、X(旧Twitter)の石山寺公式アカウントによると、『石山寺縁起絵巻』を忠実に再現したセットとのこと。母娘(?)で読経する人、居眠りする人、外で待つ従者たちなど様々で、短いが楽しい場面となっていた。

藤原道綱母と紫式部、平安時代を代表する文学の作者同士の邂逅がここでも!
『蜻蛉日記』には兼家との関係に悩んで石山詣をしたことが書かれているので、兼家を喪ったあとにもお参りしたことが実際にあったかもしれない。寧子(財前直見)は髪を尼削ぎで短くし、袈裟を身に着けている。

まひろが寧子に教えられた「書くことで己の痛みを癒す」。

第8話(記事はこちら)での赤染衛門(鳳稀かなめ)「心の中は己だけのもの。そういう自在さがあればこそ人はいきいきと生きられるのでございます」と同じく、クリエイターとして大切なことを先達の作家たちから、まひろが受け取ってゆくのが面白い。

道綱と光源氏の違い

道綱(上地雄輔)は、自分と出会い大喜びするまひろを見て「いける」と思っちゃったのか。お寺で、しかも母が詣でている寺院で女に夜這いをかけるあたり、君には神仏への畏れと羞恥心というものがないのか。

忍んで行ったら目当ての女がおらず、別人だった。これは『源氏物語』第3帖「空蝉」のエピソードを思わせる。
ただ、人違いでも「ま、いいか」と行為を続行してしまう光源氏に比べて、ごめんと引き下がる道綱の善人ぶりよ…言い訳がへたくそ過ぎて最低には違いないんだけど、これも「前々から、あなたのことが気になっていたのですよ」と、しれしれと嘘を並べ立てる光源氏を思えば、根本的に人が好いんだな……と、その不器用さに笑ってしまうのである。
さわちゃんが可哀想だし、道綱は駄目。それは大前提として。

次週予告。屋内だけど『源氏物語』青海波(第7帖「紅葉賀」)の場面っぽい? 伊周と隆家(竜星涼)兄弟の舞。平安文学ファンおまちかね、香炉峰の雪(by『枕草子』)!! 小学生のように雪ではしゃぐ貴公子、斉信(金田哲)と公任。疫病が都に蔓延。そしてそれが、まひろと道長を再会させることに!?「殿のお心にはもうひとりの誰かがいるわ」気づいてしまった倫子(黒木華)。その腕に…抱かれている猫がいる、チラッと耳が見えましたわよ、皆の衆! 小麻呂ちゃんか!? 他の猫か!?

*このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。

 『光る君へ』1話イメージイラスト「まひろと三郎の幼い出会い」/南天
 『光る君へ』2話イメージイラスト「まひろの仕事は代筆屋」/南天
 『光る君へ』3話イメージイラスト「見事な貴婦人、倫子はよく笑う」/南天
 『光る君へ』4話イメージイラスト「五節の舞姫を務めるまひろが見たその顔は!」/南天
『光る君へ』5話イメージイラスト「まひろから道長への辛い告白」/南天
『光る君へ』6話イメージイラスト「鮮やかに、ききょう(清少納言)登場」/南天
『光る君へ』7話イメージイラスト「道長からの恋文を焼き捨てるまひろ」/南天
『光る君へ』8話イメージイラスト「異なる立場から序盤のドラマを駆動する存在、直秀、花山帝、藤原道兼」/南天
『光る君へ』9話イメージイラスト/「まひろと道長は直秀の亡骸に土を被せた」/南天
『光る君へ』10話イメージイラスト/「あの場所で契りを交わしたまひろと道長だが……」/南天
『光る君へ』11話イメージイラスト/「兼家はまひろを『虫けら』呼ばわりする」/南天
『光る君へ』12話イメージイラスト/「倫子とまひろの身分の違いが道長との関係を決定づける」/南天
『光る君へ』13話イメージイラスト/「一条帝と仲睦まじい定子。後に並び立つ彰子も誕生」/南天
安倍晴明の予言のように兼家が逝去、後継者は長男の道隆/『光る君へ』14話イメージイラスト/南天
荒れる道兼、射る道長。ききょうは清少納言になった/『光る君へ』15話イメージイラスト/南天
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