くらし

葛飾北斎は絵を描くとき、どんな顔をしてたのか?│金井真紀「きょろきょろMUSEUM」

『浦上コレクション 北斎漫画 驚異の眼、驚異の筆』うらわ美術館(埼玉県さいたま市浦和区仲町2-5-1 浦和センチュリーシティ3F)にて6月17日まで開催。浦上満氏のコレクションから、保存状態の良い版画約200点を展示。電話番号048-827-3215営業時間10時〜17時(土・日曜は〜20時) 休館日月曜 料金・一般610円。

今年の春先に南インドを旅した。路上の人々の風景がおもしろすぎて、わたしの目はランランと輝いてしまった。床屋さんも仕立て屋さんも青空の下が仕事場だ。そこにカリフラワー満載のリヤカーが通りかかり、頭にレンガを乗せて運んでいるおばさんが大声で笑っている。わぁ、いいなぁ、みんな生きてるなぁ。

という、なんとも朗らかな感慨がまさか浦和でよみがえるとは。北斎漫画に描かれている江戸の人々は、インド人に勝るとも劣らない魅力を発していた。商売いろいろ、表情百態、飛んだり跳ねたり泳いだり。いやはや、生き生きしてるなぁ! わたしは絵を見ながら、顔がにやけるのを禁じ得ないのであった。たぶん北斎先生も、ニヤニヤしながら描いたんじゃないかな。

それが証拠に。たとえば太っちょのおじさんが手紙を読んでいる絵の横には、さりげなくデブ猫が描き込まれている。三つ目おばけの隣りには、三つ目用のメガネを売りつけている眼鏡屋さんの姿あり。さりげないユーモアがそこかしこにちりばめられていて、こんな絵はニヤニヤしながらじゃないと描けないはずなのだ。

というわけでわたしは、「葛飾北斎は絵を描くときニヤニヤしていた」説をここに提唱したい。

にやけた顔のまま美術館を出て、浦和の商店街を歩いて帰る。あれれ、なんだか往来の人たちがおもしろく見えてくる。江戸やインドだけじゃなくて、人はいつでもどこでもおもしろい存在なのかもしれないなぁ。さてと、蕎麦でもたぐるか。

金井真紀(かない・まき)●作家、イラストレーター。最新刊『パリのすてきなおじさん』(柏書房)が発売中。

『クロワッサン』974号より

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