くらし

食の楽しみの多様性が広がり、魅力を増すドバイのレストランシーン

ミシュラン・ドバイが昨年スタートし、レストランシーンがかつてないほど盛り上がりを見せているドバイ。輸入食材に頼りがちだった砂漠の国から、地産地消を目指す方向へと舵も切られています。今回は、そんなドバイで人気抜群の実力派シェフの店やアラブ式アフタヌーンティーをご紹介します。
  • 写真・文 斎藤理子 ※文中のAEDはディルハムと読み、ドバイの通貨です。1AED=40.04円(2023年11月30日現在)

数々の受賞歴に輝くスターシェフの店〈オーファリ•ブロス〉で、ここに来なければ体験できない唯一無二の味を。

コーン・ボム。30AED。クランチ、クリーム、グリルなどトウモロコシをさまざまな形態にして一皿に。上にかかっているのは36ヶ月パルミジャーノ・レッジャーノとブラックコーンのパウダー。ひとくちで頬張ると、トウモロコシの旨味の波が押し寄せてくる。クセになる美味しさ。

自由な発想で作り出される、創造力豊かな料理の数々

中東随一のセレブリティ・シェフ、モハメッド・オーファリさんと、パティシエのふたりの弟ワッシムさん&オマールさんによる〈Orfali Brosオーファリ・ブロス〉は、高級住宅街の美しい広場の一角にあります。有名シェフのお店ながらグランドメゾンのような緊張感はなく、カジュアルな雰囲気で居心地抜群なビストロスタイルのレストランです。

シリア出身のモハメッドさんは、故郷アレッポの料理をベースに、独創的な発想で中東料理の枠を軽々と超え、唯一無二の料理を創り出します。意外な食材の組み合わせによる相乗効果から生まれる斬新な美味は世界的にも高く評価されていて、2023年度の中東北アフリカベスト50レストランでは堂々の1位、全世界対象のワールドベスト50レストランでも46位にランクイン。ミシュランのビブグルマンも持つ、ドバイを代表する料理人です。

「すでにある料理を解体して再構築するのがイノベーティブ・フュージョン料理の定義なら、私の料理はそれには当てはまりません。再構築するのではなく、世界中の料理からインスピレーションを得ながらまったく新しいオリジナルレシピを生み出すのが、私の料理。メニューにある料理にはすべてストーリーがあります」とモハメッドさん。

日本の食材や料理法も取り入れ、新しい味を生み出すオーファリシェフ。

モハメッドさんは、日本の食材や料理が大好きだそう。特にお気に入りなのが大葉で、契約農家に特別に栽培してもらっているほど。ブルグルサラダのイートHという料理は、目の前でスタッフが全部をよく混ぜ合わせてから丸めて、大葉の上に置いてくれます。大葉で包んで一口で食べれば、中東風のスパイシーさと大葉の爽やかな香りが見事にマッチ。複雑な味わいと楽しい食感が印象的です。

イートH(ブルグルサラダ)。47AED。スパイシーなブルグル(挽き割り小麦)サラダ。ブルグル、シリア・アレッポのチリペースト、ポップコーン状にしたブルグルをオリーブオイルでマリネ。大葉を添えて。
イートH(ブルグルサラダ)をよく混ぜて丸くまとめ大葉にのせた状態。巻いてひとくちで。ほどよいスパイシーさがたまらない。ポップコーン状のブルグルが、食感のアクセントになっている。
うまみエクレア。34AED。パティシエであるふたりの弟とコラボした、料理として完成されているエクレア。甘くないエクレアに、ポルチーニ・エマルジョン、カカオニブ、発酵花梨のソースなどをはさみ、ビーフ・プロシュートをトッピング。
カム・ウイズ・ミー・トゥ・アレッポ。95AED。サワーチェリー、パセリ、松の実入り和牛のケバブ。日本のつくねにインスパイアされた一品。サワーチェリー入りケバブはシリアの郷土料理。「目を閉じて食べるとアレッポを思い出す」とモハメッドさん。シナモンパウダーと和牛の相性の良さに驚く。
シシバラク・アラ・ギョウザ。AED75。齧ると肉汁溢れる和牛餃子は、ガーリックヨーグルトのソース、スジュクオイル、松の実、ミントと共に。餃子の新境地。
焦がしネギとトリュフ。95AED。5日間熟成させたサワードウ生地にブラウンバター味噌を塗り、焦がしネギ、ストラッチャテッラ・チーズ、ヘーゼルナッツをトッピングし自家製トリュフオイルをたっぷり。石窯でカリッと焼き上げてチャイブを散らす。シェフならではの極上ピザ。

メニューを見ていると、“シシバラク・アラ・ギョウザ”という料理を発見。見た目は餃子そのものながら、合わせるのはガーリックヨーグルトのソース、スジュクオイル(シリアやヨルダンのソーセージ“スジュク”から作ったオイル)、松の実、ミント。しっかりと中東風の仕上げになっています。「日本や中国の餃子、ロシアのペリメニ、ネパールのモモ、イタリアのラビオリなどなど、ユーラシア大陸には皮で包んで食べるという料理がどこにでもありますよね。それを私なりに表現したのがこちら。私の料理はどれも、ドバイのマルチカルチャー(多文化主義)を象徴していると思っています」。

モハメッド・オーファリさん。料理の才能はもちろん、朗らかで誠実な人柄で中東では一番人気があるシェフ。料理番組にも多数出演している。

1階のオープンキッチンでは、シェフとそのチームが日々創造的な味を生み出し、2階のアトリエではふたりの弟がこちらも独創的なデザート作りに取り組んでいます。入り口のショウケースには、造形美に溢れたスイーツが並び、料理メニューを見る前からそちらに心が奪われてしまいます。料理に対する哲学を兄弟で共有しているからこその、オリジナルで個性的で美味なスイーツの数々です。

マンダリーナ。50AED。マンダリンオレンジとライスプディングの出会い。
ジャパニーズ・スクエア。55AED。浅煎りから深煎りまで段階的に煎った黒胡麻で作るケーキ。浅煎りはクリーム、中煎りはムース、深煎りはスポンジ生地に。
ピスタチオ・ボム。60AED。中東を代表する伝統菓子バクラヴァの現代的解釈。ピスタチオで作られたクリーム、ムース、ホワイトチョコレート、パウンドケーキなどがミルフィーユ状になっていて、ピスタチオ好きにはたまらない。

ドバイに来たからには必ず訪れたい、〈アトランティス・ザ・ロイヤル〉の本格アラブ式アフタヌーンティー。

椰子の木の形をした人工島のパームジュメイラは、ドバイの観光名所のひとつ。その先端にある5つ星ホテル〈アトランティス・ザ・パーム〉は最高級リゾートホテルとして有名です。その隣に、2023年2月にオープンしたのが、同じ系列の〈アトランティス・ザ・ロイヤル〉。こちらも5つ星の超高級ホテルですが、そこのロイヤルティールームで体験できるのが〈エミラティ・アフタヌーンティ(440AED)〉。エミラティというのは、アラブ首長国連邦の人という意味。20種類位以上のお茶から好きなものをセレクトし、本物の中東スイーツと一緒に味わうことができます。

上・ルゲイマート(デーツシロップや胡麻がかかったドーナツに似たお菓子)。中・ハラーウェトアルジュブン(柔らかいスイートチーズの生地に、それぞれローズウォーター、ピスタチオ、チェリーを混ぜたもの)。下・バクラヴァ2種。ピスタチオとカシューナッツ。
下段左から・パンプキン・アシーダ(サフランの入ったカボチャのムース)、ハンファルーシュ(ドバイ産蜂蜜、アラビアチーズ、サフラン、黒胡麻などを包んだアーモンドペーストのクレープ)、サゴ(タピオカ、サフラン、ココナッツミルク)。
最近日本でも人気が出てきたバクラヴァは、店頭で何種類も販売されている。パイ生地を何層にも重ね、ナッツを挟んで焼き上げてシロップをかけたお菓子。一番人気はやはりピスタチオがぎっしりと詰まったこちら。
エグゼクティブ・ペストリーシェフのクリストフ・デヴォイユさん。フランス・ストラスブール出身。65人もいるペストリーシェフを率いる。

「〈エミラティ・アフタヌーンティ〉にはセイボリーやサンドイッチなどは入れず、中東菓子だけで構成しています。全部甘いものなので、焼いたり揚げたり蒸したりといろいろな調理方法を駆使し、甘さも控えめにして飽きが来ないよう工夫しています。もちろんすべてここで手作りですよ」と、エグゼクティブ・ペストリーシェフのクリストフ・デヴォイユさん。

目の前に広がる美しい海。お茶の後の散策もおすすめ。

〈アトランティス・ザ・ロイヤル〉エントランス前の風景。
エントランスから見えるサンセット。
ペルシア(アラビア)湾に沈む夕日。

〈アトランティス・ザ・ロイヤル〉はペルシア(アラビア)湾に面しているので、お茶した後の散策にもぴったり。広々とした海原を渡る気持ち良い風に癒されます。海に沈む夕日は圧巻。遮るものが何もない勇壮なサンセットが堪能できます。

軽く1杯からフルコースまで、あらゆるシチュエーションに対応する〈ザ・ギルド〉。

〈The Guildザ・ギルド〉は、世界でも屈指の金融ハブで経済特別区でもあるDIFC(ドバイ国際金融センター)にオープンしたばかりのレストラン。カジュアルなコーヒータイムからフルコースのディナー、バータイムまで、あらゆるシチュエーションに対応するゴージャスな空間がドバイの最先端エリアに登場したことで、大きな話題になっています。

ドバイで今一番話題のレストランには、世界中から空輸される生きた魚介がいる生簀も。

タラバガニのカクテル。170AED。きゅうりとオリーブオイルベースのソースで和えたアラスカ産タラバガニに、オリーブオイルで作る透明なキャビア風とアボカドを添えて。軽やかで爽やかな味わい。
ロースト・ビーツ。46AED。ローストしたビーツのスライスで山羊のチーズのムースを包み込み、キヌアやハーブ、コリアンダーの花などを散らした一品。ルッコラとパルミジャーノのソースで。
タラバガニのスモークサーモン包み。140AED。サーモンの中にはタラバガニがぎっしり。パセリクリームと発酵レモンがベースのソースが軽やか。
マグロのカルパッチョ。95AED。薄くスライスした新鮮なマグロの刺身を、コンフィーにしたマグロ、地元産トマトなどと一緒に。食感と味わいの違いが楽しめる。

4つのスペースに分かれている店内でも人気は、生簀のあるシーフードバーの〈ザ・ロック・プール〉。ここには、世界中から生きたまま空輸される旬の魚介類がいる生簀があり、アラスカからのタラバガニやアトランティック・ロブスター、ウニ、貝類など、新鮮そのものの魚介類が楽しめます。むきたての牡蠣が食べられるオイスターバーでは、冷えたシャンパーニュをぜひ!

中央に生簀がある〈ザ・ロック・プール〉という名のシーフードバーとレストラン。世界のトップクラスのシーフードが集められている。

薪火や炭火で焼かれる肉の美味しさ。活気あふれる店内からドバイの勢いが伝わる。

ゴージャスなインテリアのメインダイニング〈サロン〉はオープンキッチン。炭火や薪火で次々と美味しそうな肉が焼かれ、焼きたてのパンのいい匂いが食欲を刺激します。キッチンの指揮を取るのは、エグゼクティブ・シェフのポール・ガヤフスキーさん。世界各地の星つきレストランで腕を振るい、パーク ハイアット 東京にある〈ニューヨーク・グリル〉の料理長でもあった実力者です。

プライム・リブアイのグリル。380AED(400g)と、オーストラリア産和牛のT-ボーンステーキ。1200AED(1kg)。薪で焼き上げる肉を塊で。香ばしくて肉の旨味がたっぷり。

〈ザ・ロック・プール〉と〈サロン〉のメニューは共通なので、組み合わせは自由自在。ロンドンやニューヨークの賑やかなブラッスリーを彷彿とさせる豪華なダイニング・ホールでのひとときは、ドバイの旅をより一層特別な時間にしてくれます。

オーナーのトム・アーネルさん(左)とエグゼクティブ・シェフのポール・ガヤフスキーさん(右)
〈Salon〉という名のメインダイニング。ゴージャスンアインテリアが目を引く。正面はオープンキッチンになっている。

〈ザ・ギルド〉は朝食や軽食も提供しているので、気軽に立ち寄れるのがいいところ。グランメゾンの雰囲気はありながらも格式ばらず、夜もフルコースを食べる必要がないのが嬉しいレストランです。

ドバイの美味しい旅はまだまだ続きます。

ドバイの様子を動画でちょい見せ。

斎藤理子

斎藤理子 さん (さいとう・りこ)

フードジャーナリスト

雑誌編集者を経てロンドンなど海外に長年住み、その間世界各国を食べ歩く。現在は国内外の生産者から三つ星シェフ、立ち飲みまで広く取材し執筆。著書に「イギリスを食べつくす」(主婦の友社)、「隣人たちのブリティッシュスタイル」(NHK出版)など。編著に『アル・ケッチァーノ』奥田政行シェフの連載をまとめた「田舎のリストランテ頑張る」(マガジンハウス)。2011年英国政府観光庁メディアアワード受賞。やまがた特命観光・つや姫大使。

《協力》
ドバイ経済観光庁:https://www.visitdubai.com/ja
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※文中のAEDはディルハムと読み、ドバイの通貨です。1AED=40.04円(2023年11月30日現在)

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