くらし

砂漠の国で地産地消に取り組むふたつの人気レストラン

レストランシーンがかつてないほど盛り上がりを見せているドバイ。味のこだわりだけでなく、食のサステナビリティへの取り組みにも力を入れているこの都市で、特に注目のレストランを2軒紹介します。
  • 写真・文 斎藤理子 ※文中のAEDはディルハムと読み、ドバイの通貨です。1AED=40.04円(2023年11月30日現在)
世界で一番高い建物、ブルジュ・ハリファ

アブダビ首長国、ドバイ首長国など7つの首長国から構成されるアラブ首長国連邦。そのアラブ首長国連邦のなかでも最大の都市がドバイ。中東で初となる「ミシュランガイド ドバイ2022」が発表されたことで飲食業界に大きな注目が集まっています。輸入食材への依存から脱却を目指し、地産地消を目指す動きも注目を集める理由の一つ。その取り組みについて取材しました。

サステナブルの旗手が展開するモダン・スパニッシュレストラン〈ボカ〉。

新鮮なトマトとイチゴのガスパチョ。70AED。トマトもイチゴもドバイで生産されるものを使用。

地元の生産者をサポートし、フードロス対策や二酸化炭素排出削減にも取り組む、持続可能なダイニング。

独創的なモダンスパニッシュを展開する〈BOCA(ボカ)〉は、世界でも屈指の金融ハブで経済特別区でもあるDIFC(ドバイ国際金融センター)の中にあります。国際的なギャラリーや星付きレストラン、ラグジュアリーホテルなども集まるここは、単にビジネスのハブとしてだけではなく、文化の発信地としてもドバイの最先端になっている場所。

食通の注目を集めるDIFCのレストランの中でも、ひときわ人気が高い〈ボカ〉は、あらゆる面でのサステナビリティとゼロエミッションに取り組むレストランとして有名です。食材は可能な限りドバイ及びアラブ首長国連邦内で調達。どうしても入手できないものは、世界各地のサステナブルな生産者を厳選して仕入れます。砂漠のイメージが強いドバイですが、ペルシア(アラビア)湾に面しているので実は海の幸も豊富。5年前から養殖が始まったDIBBA BAY(ディバ湾)の牡蠣をはじめとした、獲れたてのシーフードも楽しめます。

オーナーのオマー・シハブさんによると「ドバイのレストランは会社経営が多いので、仕入れは業者任せがほとんどです。でも私は、最低週2回必ずシェフが市場に行って自分の目で確かめた魚介を仕入れることにこだわりました。他の国では当たり前に聞こえるかもしれませんが、ドバイではとても珍しいことなんです。旬の魚がわかるUAEフィッシングカレンダーというものを参考に、近海で水揚げされたばかりの旬の魚を仕入れるので、他のレストランではあまり目にしないローカルな魚も提供することができるんです」

ディバ湾の涼しい季節の牡蠣 トマトドレッシング、 地元産ビーツ、海藻のジュレ。110AED。中東で唯一の牡蠣養殖場であるアラブ首長国連邦のディバ湾から届く新鮮そのものの生牡蠣。小ぶりだけれど旨味はたっぷり。
タコのグリル 有機ピュイレンズ豆のカレーピュレ、ラブネ(水切りヨーグルト)、 マンゴー、レッドチリドレッシングAED125。ペルシア(アラビア)湾で一本釣りされるタコをさっとグリル。カレー味のピュレがタコの甘みを引き立てる。
トルティージャ・デ・パタタス キャラメルオニオン、オリーブオイルマヨネーズAED40。じゃがいものスペイン・オムレツ。

廃棄物を一切出さない、ゼロエミッション・レストランの実現へ。

シハブさんは、砂漠という過酷な気象条件での農作物の栽培研究に取り組む農学者や科学者たちのサポートにも熱心です。砂漠の生育に適した野菜の育成を研究しているICBA(国際塩水農業センター)と協働し、海水淡水化プロジェクトやそこで生じる塩分を含んだ水でも適応できる作物の開発を積極的に支援しています。

「アラブ首長国連邦の耕作可能な土地は、国土の5%しかありません。その5%を少しでも増やすことが、私たちの小さな貢献のようなものなんです」とシハブさん。

〈ボカ〉には廃棄物担当者という役職が存在します。ゴミは、6通りに厳密に分別され、それぞれリサイクルに回されます。たとえば、使用済みの油はドバイの地元企業に送られ、バイオディーゼルになります。「私たちはアラブ首長国連邦のスタートアップ企業である〈The Waste Lab(廃棄物ラボ)〉という会社と協力し、レストランから出る生ゴミを大量に回収してコンポストを作っています。そうしてできた堆肥で道場改良をして、新しく豊かな表土を国内に作る準備もしているんです」

ドバイ産のトマトやイチゴは水耕栽培や屋内垂直農法で作られるため、味が一定で通年供給できるのが特徴。そうした貴重な食材を完全に使い切るための工夫にも余念がありません。「料理に使わないトマトの皮や種はバーでお出しするカクテルに変身します。フードロスをなくし、ゴミを一切出さないことが私たちの使命です」

スーパーフードと砂漠の植物。85AED。ドバイで作られている有機キヌア3種とアマランサス、砂漠に生息する食べられる植物のKhobez(ホブズ)、Homaid(ホメイド)、Khansour(ハンサワー)、のサラダ。砂漠の野草は少し酸味と苦味があり美味しい。ローストしたナスのクリーム、カカオニブ、地元産エディブルフラワーを添えて。
牛肉のタルタル ツナのエマルジョンソース クリスピーケッパーAED95。 エディブルフラワーやマイクロハーブは、ドバイ郊外の農場で水耕栽培されている。
ペルシア(アラビア)湾産鯛のグリル ドライシェリー&グリーンカレーソース、地元産青梗菜AED120。しっとりと焼き上げた鯛に繊細なソースがよく合う。
砂漠から届く野草〈Homaid(ホメイド)〉。砂漠の民に昔から食されている、伝統的で貴重な食材。
オマー・シハブさんの哲学を具現化するシェフは、スペイン・セビリア出身のパトリシア・ロイグさん。世界各国の一流レストランで腕を振るってきた確かな実力の持ち主。
オーナーのオマー・シハブさん。〈ボカ〉は、2022年と2023年にゴー&ミヨの〈サステナビリティ・チャンピオン・オブ・ザ・イヤー〉を受賞。2023年にはミシュランのグリーンスターを得ている。

ドバイの砂漠には〈シェイク・ムハマンド・ビン・ラーシッド・アール・マクトゥーム・ソーラーパーク〉という巨大なソーラーパネル・パークがあります。〈ボカ〉で使用する電力はすべて、そこから送電されているのだそう。「〈ボカ〉は100%再生可能エネルギーを使用しているという公式証明書を国から受けているんです」

アルコールを提供しないレストランも少なくないドバイの中で、〈ボカ〉のワインセラーの充実ぶりは白眉。セラーにあるワインの40%はスペイン産。60%はパレスチナ、シリア、レバノン、トルコ、アルメニア、グルジアといった近隣諸国のワインです。運送の際の二酸化炭素排出量を削減するために、極力近い国のワインを仕入れるようにしていると、シハブさん。ワインとともに美味しい食事を楽しめるレストランは、ドバイでは大変希少で貴重です。

気軽なランチ、食前酒を1杯、しっかりと味わうディナーなど、その時の気分に応じて使い分けられる〈ボカ〉。カジュアルで居心地の良い雰囲気の裏には、世界中から注目される徹底したサステナビリティの追求があります。

90%の食材をアラブ首長国連邦国内でまかなう、地産地消の美術館レストラン〈テイブル〉。

シャルジャ産ズッキーニのサラダAED85。室内栽培の国産ズッキーニは、アラブ首長国連邦のシャルジャから。オリーブオイルでグリルしたズッキーニ、塩麹のエマルジョン、チリオイル、カシューナッツ、梨などをサラダ仕立てに。食材のバランスが良く、塩麹とチリオイルがアクセントになっている。
海老のアヒージョAED130。アブダビで養殖している海老、アル・アヒージョソース、自家製うま味オイル、自家製シトラスオイル、オレンジセグメント。身が締まった海老の旨味に驚かされる。自家製の旨味オイルとシトラスオイルが海老の旨みを引き立ててとても美味しい。
ラムのタヒーニ&モーレソースAED85。 低温調理したシャルジャ産ラムのもも肉とほうれん草をローストした茄子で巻き、Tahini(タヒーニ)とMole(モーレ)のソースで。タヒーニは胡麻ペースト、モーレはメキシコのカカオを使ったソースのこと。低温調理でしっとり柔らかく仕上げたラムに、さまざまな味わいのソースが絡み絶妙な味わいに。

Jaddaf Waterfront(ジャダフ・ウォーターフロント)にある〈Jameel Arts Centre(ジャミール・アーツ・センター〉は、2018年にオープンした現代美術館。中東や南アジアの作家の作品展示を中心に、ワークショップや講演会、トークショー、研究会なども行う現代アートの発信基地です。その1階にあるのが、〈teible(テイブル)〉。

オーナーのピーター・アーンさんは、韓国出身。2011年にドバイに移住し飲食ビジネスで成功を収めます。それまでドバイには地産地消を意識したレストランがほとんどなかったことから、2年間かけて地元生産者をリサーチ。ヨーロッパで料理人としての経験を積んだ伊藤雅記さんをディレクターに迎え、地産地消とサステナビリティがテーマの〈テイブル〉を2021年にオープンしました。

旬があまりないと思われがちなドバイですが、実は季節ごとの食材も豊富。〈テイブル〉では、それを最大限に生かし時期や季節でメニューを変えています。「地元農家と密接に連携し、食材の90%をアラブ首長国連邦内から調達できるようになりました。野菜や果物の60%はシャルジャのグリーン・ハート・ファームから、牛肉やラムなどの肉類はアジュマンのホーム・ミート・ファームから。牧畜農家に牛を委託して肥育させることもしています。新鮮でサステナブルな食材を調達する努力は惜しみません」とアーンさん。

ドバイ現代美術館で中東アートを体験した後に、美味な料理を味わう至福の時。

パッションフルーツとタラゴンのパブロヴァ。45AED。シャルジャ産ラブネ(水切りヨーグルト)を使用。スイスメレンゲ、パッションフルーツラブネー、シトラスタラゴンソルベ、塩麹オイル。軽やかな食感と初体験の味わいが新鮮なドルチェ。
ナチュラルなイメージの店内。水辺に面していて自然光たっぷりなのでとてもリフレッシュできる。
オーナーのピーター・アーンさん。〈テイブル〉は2023年のミシュラン・グリーンスターとミシュラン・ビブグルマンを獲得している。
ディレクターの伊藤雅記さん。

ヨーロピアンをベースにしつつ、スパイスやハーブ使いに中東のニュアンスも感じる料理はどれも軽やかで調和の取れた美味しさ。アルコールはない代わりに、味わい深いモクテルが種類豊富に揃っています。廃棄されるはずの食材から塩麹や味噌などの発酵食品を作り、フードロスを最低限に抑える試みも。それがまた、料理の味を奥深いものにしています。アーンさんがここで目指しているのは、持続可能性、季節感、シンプルさ、誠実さという4つの柱。ドバイでは新鮮な価値観でエコロジーを提唱していきたいそうです。

デーツの種を乾燥して粉砕し固めてトレイやカウンタートップにしたり、廃棄された椰子の木を繊維化して壁紙にしたり、料理だけではなく、店内の内装や小物なども可能な限り地球に優しいものを使用し、自然環境の保全に役立つようにしているとアーンさん。目の前に広がる水面を眺めながらゆっくりと楽しむ美味に癒されます。

ドバイでお酒が飲みたくなったら、迷わず〈モンキー・バー〉へ。

〈モンキー・バー〉から望む夜景。ユニークなデザインの〈Museum of The Future(未来博物館)〉が目の前に。

ドバイの最新アトラクション〈Museum of The Future(未来博物館)〉に隣接するホテル〈25 hours hotels One Central〉の6階にあるモンキー・バーは、平日は17時〜午前2時、土日は17時〜午前3時まで営業しているバー。飲酒禁止の近隣アラブ諸国の中では比較的お酒が飲める場所が多いドバイですが、その中でも平日なら午前2時まで、週末は午前3時までお酒が飲める〈MONKEY BAR(モンキー・バー)〉は、仕事や観光、食事の後で一息つける大変貴重なバーです。

店内は、ジャングルを思わせるインテリア。周りを囲むたくさんの植物に癒されます。ドバイ産クラフトビールもあり、昼間の暑さに火照った体を癒してくれます。美味しいカクテルや、ノンアルコールのモクテル、おつまみも種類豊富なので、1日の終わりにほっと一息つきたい時にはおすすめのバーです。

〈モンキー・バー〉内観。ジャングルをイメージしたインテリア。屋内の席はクーラーが効いていて快適。
植物に囲まれた居心地の良いソファー席。涼しくなる夜には、眺望が素晴らしい屋外席がおすすめ。

ドバイの美味しい旅はまだまだ続きます。

ドバイの様子を動画でちょい見せ。

斎藤理子

斎藤理子 さん (さいとう・りこ)

フードジャーナリスト

雑誌編集者を経てロンドンなど海外に長年住み、その間世界各国を食べ歩く。現在は国内外の生産者から三つ星シェフ、立ち飲みまで広く取材し執筆。著書に「イギリスを食べつくす」(主婦の友社)、「隣人たちのブリティッシュスタイル」(NHK出版)など。編著に『アル・ケッチァーノ』奥田政行シェフの連載をまとめた「田舎のリストランテ頑張る」(マガジンハウス)。2011年英国政府観光庁メディアアワード受賞。やまがた特命観光・つや姫大使。

《協力》
ドバイ経済観光庁:https://www.visitdubai.com/ja
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※文中のAEDはディルハムと読み、ドバイの通貨です。1AED=40.04円(2023年11月30日現在)

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