くらし

『リスペクト R・E・S・P・E・C・T』著者、ブレイディみかこさんインタビュー。「女性を勇気づける痛快な話が、一つでもあったらいい」

  • 撮影・大内カオリ 文・本庄香奈(編集部)

「女性を勇気づける痛快な話が、一つでもあったらいい」

ブレイディみかこさん●ライター、コラムニスト。1965年生まれ。1996年からイギリス在住。保育士として働く傍ら文筆業を始める。著書に『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)など。

2014年、オリンピック後のロンドンでは、社会に歪みが生じていた。労働者階級が多く住むイーストサイドを開発したことで、地価が上がり、土地を持たない生活者が街から追い出されたのだ。

物語の主人公ジェイドは、シングルマザーで生活保護を受けており、似た境遇の女性たちとシェルターで暮らしていたが、突然、強制退去を宣告される。頼れる親戚もいない中、乳飲み子を放って働けない、働けたとしても、保育士の給料ではロンドンの賃貸住宅には住めない……そして相談に行った先で、区の職員から「引っ越すほかない」とあしらわれる。なぜ、自分の存在はこんなにも軽いのか。

〈あたしらは生きていて、ここに存在しているんだから、あたしらをいないものにするなって……。もうあたしは黙らないからなって、それがあたしの本当に言いたいことなんです〉

そして、彼女たちは、立ち上がる。これは、そんな実話をもとにしたドキュメンタリー小説だ。

対岸の話ではない。諦めの気持ちに風穴を。

運動は、スピーチに留まらず、閉鎖された公営住宅を占拠。修繕費が足りないと区が放置した住宅を、自分たちで直し始める。

「近隣住人にトイレの直し方を教わりながら『これぞアナーキーだ』と言うシーンがあります。アナキズムというと突飛で危険なイメージがありますが、『人間は誰かに支配されなくても、自分たちでやっていく力が備わっているんだ』という考え方。大きなものに依存するのではなく、人が本来持つ、助け合って生きのびていく“相互扶助”の力を回復しようよ、そういう思想だと思います」

そしてこれこそ、ジェイドたちの運動の本質だった。彼女たちは、政府にお金や助けを請うたのではない。運動の目的は、生きる環境を奪うな、存在を排除するな、という訴えだ。そして、その姿勢は多くの人に支持され、メディアの注目を集め、物事を動かしてゆく。

「この話って、普通の女性たちでも、生活に根ざしたところで立ち上がって、何かを勝ち取ることができるんだって、女性を励ます話だと思うんです。何をしても変わらないという諦めの気持ちに、風穴をあけたかった。日本と海外では全く違うことが起きている。イギリスの話を伝えることで、日本でも何かできるんじゃないかって思ってくれたら、すごくうれしい」

最後に、タイトルである『リスペクト』の意味を尋ねてみた。

「自分で考えてほしくて、この話を書いたんだと思います。ジェイドたちはリスペクトされてないって感じて運動を始めて、区長から謝罪文までもらった。それを見守っていた日本人ジャーナリストの史奈子は、『私は自分をリスペクトしていたか』と気がついて、とある決断をする。そんな彼女たちを見て、『あなたにとってリスペクトは何ですか?』と、そんなふうにタンカを切っているのかもしれません(笑)」

ロンドン在住の著者が実際に目撃した、社会運動を小説化。立ち上がった女性や見守った日本人ジャーナリストの生き様を通して、尊厳とは何かを説く。 筑摩書房 1,595円

『クロワッサン』1103号より

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