夏の「腸疲労」を救ってくれる引き算で考える養生のススメ
撮影・青木和義 料理製作&スタイリング・渡邊美穂 イラストレーション・竹井晴日 構成&文・堀越和幸
チェックリストで判定、あなたの腸は疲労している?
近頃、便通のリズムが乱れがち、あるいは何日もお通じがやってこない、そんな人は夏の腸疲労を起こしているかもしれない。
「腸は本来温かい環境でのびのび働く臓器。それが夏は、冷たい飲み物の摂り過ぎや、エアコンの効き過ぎた部屋のせいで巡りを滞らせてしまい、この季節特有の“腸疲労”を引き起こしてしまうんです」
と語るのは、明治国際医療大学教授の伊藤和憲さんだ。
特に夏の酷暑や紫外線によるストレスは交感神経のスイッチをオンにしっぱなし。そんな状態も腸にとってはよろしくない。「上のチェックシートで日頃の生活を客観的に評価してみましょう。便秘くらい、と軽視しているとさらに悪化することがあります」
腸活が効かない!? 疲れやすい⼤⼈の腸には事情がある
せっせとヨーグルトを食べて、なるべく野菜も摂っているのに、目に見えて腸活が効いているとも思えない。と、感じる人には、大人ならではの事情があるらしい。
「年齢を重ねると腸内細菌の多様性がゆるやかに低下していきます。いわば、腸という森の生態系が単調になっていくイメージです」
それをダメ押しするのが、体の酸化、糖化のシステムだ。
「酸化とはたとえるなら体が“錆びる”ことです。不眠やストレスなどで過剰に発生した活性酸素が、体の細胞を傷つけます」
一方の糖化は“焦げる”イメージ。
「体内で代謝されなかった糖がタンパク質と結びつくと、AGEs(終末糖化産物)という物質に変わり、腸の粘膜バリアを破壊することが報告されています。AGEsは一度できると体外に排出されにくい老化物質なので要注意です」
それでは、それぞれどんな対策を講じていけばいいのか?
「酸化は生活習慣によるところが大きいです。紫外線や、ストレス過多、睡眠不足を避けましょう」
一方の糖化は、食事に対するケアが基本となる。
「まず過度な糖質摂取を避けること。そして、揚げたり、焼いたりする料理ばかりを食べないこと。AGEsは体内で生成されるだけでなく、焦げた食品からも吸収してしまうからです。暑い季節は喉ごしのいい、そうめんに天ぷらといった食事が多くなりがちですが、これも糖質+揚げ物なので、ちょっとだけ回数を減らしましょう」
肌の状態を⾒ると腸の状態がわかる。
腸が体の中で担っている役割は食べ物の消化、吸収だけではない。近頃は脳にも指令を出しているという話題もよく耳にする。
「自律神経を介して脳が腸に命令を出しているのは誰もが知るところですが、最近では、腸で吸収した必須アミノ酸が神経伝達物質やホルモンを作るため、腸の分解・吸収がうまくいかないと脳の働きも落ちることがわかってきています。これを脳腸相関と呼びます」
腸が“セカンド・ブレイン(第二の脳)”とも呼ばれるのはこうした機能があるから。さらに、腸は肝臓とも同様の関係を持っている。
「腸は門脈を通じて栄養素などを肝臓に運びますが、一方の肝臓は胆汁や免疫関連物質を腸に運び、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)に影響を与えています。これを肝腸相関といいます」
そして、腸は肌とも密接な関係にあることが近年報告されている。こちらは皮膚腸相関だ。
「私たちはお通じの調子が悪かったりすると肌が荒れたりすることを経験的に知っています。腸の働きが落ちると免疫力が低下し、肌のバリア機能も崩れてしまうからです。その一方で、肌の慢性的な炎症は自律神経などを介して、腸の働きや腸内環境にも影響を与えることが、近年わかってきました」
ということは、皮膚とつながる腸は脳とも相関しているので……。
「皮膚の状態を見ると心の状態がわかる。つまり、皮膚の様子はメンタルのチェックサインにもなるわけです。日頃から腸が結ぶネットワークを意識してみましょう」
⾷べても太れない⼈は、お腹の⽼化が原因かもしれない
若い頃はちょっと食べ過ぎればたちまち体重や体形に跳ね返ってきたけれど、最近は食べても全然太らなくなった ──。そんなあなたは腸フレイルかもしれない。
「すなわち腸の老化です。太らないからラッキーなどと考えてはいけません。腸内細菌の多様性が落ち、働きも弱くなっているので、しっかり食べているのに消化・吸収ができない状態です。放ってお
けば、さらに老化が進みます」
なかでも気をつけたいのが、最近注目をされているリーキーガットと呼ばれる症候群だ。
「日本語に訳すと“腸漏れ”です。腸には本来バリア機能があり、その腸壁はタイトジャンクションと呼ばれる結合組織によってがっちり守られているのですが(上イラスト)、それが何らかの理由によって破壊され、本来は通してはいけない腸内の物質が血管に漏れ出してしまうのです」
通していけないものとは、未消化の物質や老廃物、細菌やウイルス、毒素などで、それが細胞の隙間から漏れ出し血流に乗って全身を駆け巡ると、各所で炎症を招き、悪さをする。
「リーキーガットは加齢による腸の老化も一つの要因となりますが、前述した、糖化や酸化によって起
きることもありますので、併せて気をつけなければなりません」
と、聞かされると、自分の腸は大丈夫?と、そっとお腹に手を当てたくなるが、伊藤さんによれば、これは必ずしも“手遅れ”となる事態ではないのだそう。
「腸には自ら整おうとする自然治癒力が備わっているので、日々の小さな養生の積み重ねで、きっとバリアは復活すると考えています」
では、その具体的な方法を次から見ていこう。
無理のない“時間制限食”で働きづめの腸に、しっかりと休養を与える
腸を本格的に休ませるのであれば、やはり絶食をするのが一番だ。
「腸は意識的に動かすことはできませんので、食べ物が入ってくる限り働き続けます。という観点からもプチ断食は有効です」
その際、伊藤さんが勧めるのは、食事の時間を一定の幅に収める〝時間制限食〞という考え方だ。
「プチ断食では12〜16時間ほど食べない時間を作るのが代表的ですが、例えばこの時間制限食で夜の8時に食事を終えて、翌朝8時の朝食まで何も食べない、というタイムテーブルにすれば、12時間のプチ断食をしたことになります」
つまりは絶食時間の大半を夜の睡眠時間に充てているので、これであれば初めてプチ断食を挑戦する人にも無理がない。
「もちろん空腹の間は水を飲んでもOKです。が、できれば常温水や白湯などを飲むとさらにいい」
ここで大切なのは無理をしないこと。時間制限食はもちろん毎日やらなくてもいいし、空腹がつらい日は食べてもいい。自分の中で“心地よくできる”を判断基準に行う。
「養生は特別なことをやり遂げることではありません。冷たいものを減らし、空腹の時間を作ったら、温かい一杯をゆっくり味わう、そんな生活に親しんでみてください」
この季節に必要なのは攻めの腸活よりも、引き算の健康法「養⽣」だ
腸の働きが落ちているなか、夏疲れのダブルパンチに見舞われたら、攻めの腸活よりも、「養生」を勧めたい、と伊藤さんは言う。
「健康を考えるとつい“良いものを足していく”方向を考えがちですが、逆に負担になることがある。むしろ余計なものは削ぎ落とす、引き算の発想が体を労ります」
例えば、出汁と塩で味付けしただけのシンプルなスープで、栄養を摂りながらも腸を休ませる。
「汁物は温かいものが腸にいい。選ぶ具をトマトやかぼちゃなどの夏野菜にすれば、東洋医学的な観点からは体全体を冷やしつつも、腸には優しい温料理となります」
素朴な味わいの、スープ、お粥、味噌汁の養生食で夏の腸を労ろう。
腸に優しい3つの養生食
腸を労る、夏のトマトの温スープ。
トマトは代表的な夏野菜。体にこもった余計な熱を取る。温かな汁の酸味、旨味がじんわり体に染みわたる。
【材料(2人分)】
・昆布だし…400㎖
・トマト(大)…1個
・塩…適量
【作り方】
1. 昆布だしを鍋で温め、ざく切りにしたトマトを加える。
2. トマトが柔らかくなったら塩を入れる。
疲れた腸には薬味たっぷりのお粥を
お粥は弱った腸の強い味方。細く刻んだ薬味の大葉は夏の野菜。ねぎは、消化を助けてくれる働きがある。
【材料(2人分)】
・炊いたご飯…200g
・水…400㎖
・大葉・長ねぎ…各適量
【作り方】
鍋にご飯と水を入れ、沸騰させる。極弱火にして蓋をし、時々かき混ぜながら約10分炊く。千切りにして水にさらした大葉、長ねぎを添える。
味噌汁や漬物、発酵食は腸の味方
夏野菜のかぼちゃで温かい味噌汁を。味噌や漬物など、日本伝統の発酵食品は腸内フローラを活性化してくれる。
【材料(2人分)】
・だし汁…400㎖
・かぼちゃ…150g
・玉ねぎ…1/8個
・味噌…大さじ1と1/2
・小ねぎ・好みの漬物…各適量
【作り方】
1. かぼちゃは小さめの一口大に、玉ねぎはスライスする。
2. 鍋にだし汁と①を入れて火にかけ、かぼちゃが柔らかくなったら火を止め味噌を加える。器に盛って小ねぎをのせ、漬物と一緒にご飯などに添える。
『クロワッサン』1173号より
広告