考察『豊臣兄弟!』33話 勝家(山口馬木也)&お市(宮﨑あおい)夫婦が見せた圧巻の最期。兄弟は“天下取りモード”へ。
文・ぬえ イラスト・南天 編集・小池貴彦
三姉妹を待つ未来
脚本・演出の、俳優への信頼を感じる33話である。
あちこちに「ん?」と感じる部分があっても、演技が良いので泣かされてしまい、
「これはこれでよし! 面白い、好き!」となった。
天正11年(1583年)4月。
賤ケ岳の戦いから敗走した柴田勝家(山口馬木也)は、北庄城(現・福井県福井市)に戻ってきた。出迎えたお市(宮﨑あおい)は、すぐに逃げよと言う勝家に、落ち着いた様子で食事を勧める。
勝家「今はこのようなことをしておる時では」
お市「……せっかく作ったのに」
抗えぬ勝家、煮崩れた芋を頬張り「おいしゅうござる」。
切迫した事態なのに、微笑ましくて吹き出した。
夫婦となってから9か月。
このふたりがどう距離を縮めてきたのかが見えるようだ。
臣下としての礼を崩そうとしない勝家を、お市が時にたしなめ、時に甘えてリードしてきたのだろう。
そんな夫婦としての時間が、この短いやり取りに凝縮されている。
お市は勝家と死出の旅路に出ると決め、包囲する羽柴軍に、3人の娘を引き渡すと使いを出す。
茶々(井上和)、初(田牧そら)、江(西川愛莉)。
浅井三姉妹。
このとき15歳、14歳、11歳であった。
浅井長政(中島歩)を父に持つ娘たちは、小谷城に次いで2度目の落城だ。
なんと過酷な運命だろう。
お市は、長女の茶々に守り刀を授けて、生きて妹たちを守るよう言い含める。
三人の娘に
「いつか、父上のような方と巡り会って、よい子を生むのです。きっとその子が、そなたたちを幸せにしてくれる。私のようにの」
のちの歴史、娘たちがどんな相手と結ばれるか知っていると胸が痛む台詞だが、あなたたちの母で幸せだったと言い遺す、心からの祝福だ。
泣き咽ぶ妹たちを叱咤する茶々が「我らがけして絶やさぬ」と誓った織田と浅井の血は、三姉妹の末である江を介して、現代の皇室にまで繋がる。
ここから先の乱世を、浅井三姉妹が母の言葉通りに強くしなやかに生きた証だ。
ドラマならではの“ナイト”な勝家
北庄城を茶々たちが出た直後、本格的な攻城戦が始まる。
本丸の奥で自決のために向かい合う勝家とお市。
お先に参りますと自らの喉に刃を突き立てようとしたお市の手が止まる。
流れ落ちるのは、お市の血ではなく、すんでのところで刀を止めた勝家の血。
他に掴むところあるだろ! 画面に向かって声が出た。
刃じゃなくて、お市の手首とか刀を握る拳とか……なぜそこなんだ。
11話(記事はこちら)、焚火からお市の鏡を拾うために、火の中に手を突っ込んだ浅井長政を思い出させる場面である。
しかし、盛り上がる場面だ。ツッコミは控えよう。
お市の周りの男たちは、とっさに出る愛情表現が特殊ということにする。
もうここからは、数多の時代劇で剣を振るってきた山口馬木也を堪能する時間である。
「いま一度、抗いましょうぞ。この勝家が最後までお守りいたしまする」
時代劇のヒーロー要素にお姫様を守る騎士(ナイト)要素まで乗せてきた。
てんこ盛りだ、贅沢すぎる。
攻め込んできた羽柴勢の兵を次々と荒々しく斬り倒し
「見るな、お市!」
本作のお市は、前夫・浅井長政切腹の介錯をするほどの女丈夫である。
敵兵が斬られる様にショックを受けたりしないだろうとは思うが、勝家は妻の心までも守り抜こうとする。
あと、お市を呼び捨てにするの、初めてじゃないですか?
最後の最後で、ようやく臣下ではなく完全に夫となったように聞こえた。
天主階段の途中での立ち回り。
階段落ちに、城の外で小一郎(仲野太賀)に斬られた足軽の水落ち。
史実に忠実な合戦の再現よりも、往年の時代劇的な演出が優先されている。
城門が破られるまで、弓矢や鉄砲での攻撃をしない柴田軍。
前田軍の大将なのに足軽よりも前に出て真っ先に槍を振るう前田利家(大東駿介)。
いずれも実際の合戦ではありえなかった光景だろう。しかし、ドラマは盛り上がる。
この攻城のシーンで改めて「なるほど、時代劇! ドラマですものね!」と受け止めた。
これが、戦
ついに天主の最上階まで追い詰められた勝家とお市。
夫婦の眼前に、越前の美しい空と山野が広がる。
階段を駆け上ってきた羽柴兵は藤堂高虎(佳久創)、加藤清正(伊藤絃)、福島正則(松崎優輝)、平野長泰(西山潤)、石田三成(松本怜生)。
若者たちを見て、お市が嬉しそうに
「頼もしいのう。みな、良い顔をしておる」
ここに至って、口にするのが敗北の口惜しさではなく、命を失う恐ろしさでもない。
これからを生きる若者たちへの賛辞というのが、いかにもお市らしい。
宮﨑あおいの堂々たる演技が、死を前にしたお市の気高さを際立たせる。
妻の言葉に、得心した勝家もフッと笑み、刀を捨てる。
若者らに、そして駆けつけた小一郎に
「よう見ておけ。 これが戦じゃ!」
夫と妻とが見交わし、手に手を取って欄干を越え──。
そのまま、青い空に向かい消えていった。
柴田勝家の最期は記録され、今に伝わる。
「毛利家文書」に残された書状によれば、おおよそは次のようであった。
天主(天守閣)に勝家と家臣らが立てこもった。天主は狭いので精鋭の兵に斬りこませた。
勝家自身も武勇に優れた者で七度までは斬り戦ったが防げず、天主の最上階に上って、そこにいる全ての者に向かい、大音声でこう叫んだ。
「修理(勝家)の腹の切り様を見て後学にせよ」
敵味方、心ある者は涙をこぼし静まり返った。
勝家は妻子を刺し殺し、十文字に切腹して果てた。
33話の柴田勝家とお市の最期は、この書状を本作なりに取り込んだものだろう。
藤堂高虎たちから報告を受けた秀吉(池松壮亮)は、燃え落ちる北庄城を背に、目に涙を浮かべたまま勝鬨を促す。
羽柴勢を重い沈黙が包み、声を出す者はいない。
前田利家が勝鬨を上げる。
おそらく、誰よりも打ちのめされているであろうに。
がんばったよ、利家……早く帰って、まつ(菅井友香)の膝で泣くといい。
城の焼け跡で、並んで飛ぶ蝶2匹を見て堪えきれず号泣する小一郎。
古来より、蝶は魂そのものだと伝わる。
誰の上にも喜びをもたらすことのない勝利。
これが、戦なのである。
千宗易が茶を通して示すこと
お市の死に強い衝撃を受けた小一郎は兄・秀吉のもとに戻らず、京の都は大徳寺に籠る。
そこで運命の出会いをするのだ。
千宗易(吉岡秀隆)。のちの茶聖、千利休。
小一郎と千宗易の場面も「ん?」が色々あるが、吉岡秀隆の名演に押し切られた。
割れてしまった大名物の茶碗を繕って「前より、ずっとええわ」。
ほれぼれと見つめる千宗易。
金継ぎと呼ばれる修復の技法は、室町時代頃に始まったとされる。
漆を接着剤として修繕する方法そのものは縄文時代からある。のちに金や銀の粉を使い、美術的な価値を持つ修復へと発展した。
不完全さの中に美を見出し、人の手から手に渡ることにより生じてしまった傷を隠すことなく、新しい景色として愛でる。
日本人の美意識に深く影響する「侘びの美学」を大成させる男の登場だ。
繕った茶碗で茶を点て、小一郎に供する。
……って、ちょっと待ったー!
漆で繋いだ後は、固めねばならない。
完全に固まるまで、ものによっては数か月かかるし、完成したあとも
「器を棚の奥深くにしまって一旦忘れる。ふと思い出して取り出し、使うくらいがちょうどよい」
と言われるくらい、硬化が重視される。
すぐには使えない。
が、茶を点てる千宗易の姿が美しいので、まあいいや。
美味しいと味わった小一郎に、じゃあ、儂も一服と茶を含んだ千宗易
「あんさん、こんな苦いもの、よう美味しいと思いますなあ」
「わし、好きやないねん……茶」
懐から取り出した菓子を口に含んで「美味しいわぁ」。
甘いものを楽しむために苦いお茶を嗜むのだという。
「こんなにええもんが待ってると思ったら、割れた茶碗直すのも、苦い茶すするのも。楽しいやないか」
わぁ、いい台詞……。だが、ここでまた「ん?」と思う。
現代の茶席では、茶菓子の後に茶をいただくのが一般的だ。
もっとも、この場面は千利休が茶の湯を大成する以前の話。現代の作法をそのまま当てはめることはできない。
傷ついた小一郎を慰めるのが目的で、千宗易が話を面白おかしく盛っているとも考えられる。次に顔を合わせた時に
「あんさん、あれ本気にしはったんか。まあまあ、元気なってよかったわぁ」
くらい言いそうな雰囲気があるではないか。
堺の会合衆・商人で茶人、千宗易。
小一郎が、柴田勝家を打ち負かした羽柴秀吉の弟と知って接近を図ったとも、完全なる善意からの言動とも、どちらにも受け取れる。
これからが楽しみだ。
慶ちゃんの身の上わかってる?
千宗易との茶を味わったあと、静かに寺の鐘に耳を傾ける小一郎。
思い出すのは、第2話(記事はこちら)の願いの鐘。
自分たち兄弟の出発点である。
茶席に参加すると、不思議な感慨に浸る。
日常の諸々と切り離され、ただ、人として在る自分に立ち返るような……茶の湯に熱中した戦国武将も、こうした心境を求めていたのではないかと思うのだ。
小一郎も千宗易の茶に触れて、一人の人間に立ち返ったのではないかと想像する場面だった。
そこに、怒り心頭の慶(吉岡里帆)が現れた。
小一郎「たった今、立ち直ってしまったかもしれん」
慶「この手でー! 楽にしてさしあげます!」
慶の咆哮に、父・安藤守就(田中哲司)の「儂はー! 美濃の熊殺しじゃぞ!」を思い出す。
ドラマでは描かれなかったが、25話(記事はこちら)で織田家を追放された安藤守就は、本能寺の変の直後に嫡男の定治(森優作)と挙兵。
かつて自分が城主であった美濃国北方城の奪還を試みたものの、稲葉良通(嶋尾康史)軍に敗れ、父子ともに自害した。
慶が安藤守就の娘というのは本作独自の設定だが、今の慶は小一郎との間に生まれた娘の末(すえ)だけが肉親なのだ。
羽柴家の皆がいるとはいえ、小一郎が戻らないとあらば、さぞ心細かったろう。
自決するのではと心配で心配でたまらなかったはずである。
北庄城戦の疲れと傷心を寧々(浜辺美波)に癒してもらっている秀吉を見た後なので、小一郎の慶への
「わしもそなたに会いたかった」
これには、ぜってぇ嘘だね! と叫んでしまった。妻のこと忘れてただろ。
なにをお寺で一人(侍やめようかな……)モードに浸ってたの?
なにを千宗易にお菓子あーんしてもらってんの?
慶の「もっとわたしを頼ってちょ。私たちは夫婦なのですから」。
19話(記事はこちら)で、小一郎が慶にかけた言葉が、今度は慶から返ってくる。
いじらしく可愛いが、ちゃんと怒ったほうがいいよ。
羽柴小一郎長秀の正室についてはよくわかっていない。慶はフィクションに近い存在とはいえ、妻としていささか置いてけぼりにしすぎではないか、小一郎。
慶ちゃん、次にこういうことがあったら小一郎に縄かけるのを手伝うからね。
付け髭とともに? 天下取りモード!
播磨国姫路城(現・兵庫県姫路市)の兄のもとに戻った小一郎、天下取りを誓う羽柴兄弟の場面。
ちょっと待って。
外見がいきなり変わったので、話がすぐには頭に入ってこない。
慶が迎えに来たので、小一郎はほどなく秀吉のところに走り戻ったのだと思う。
だが、大徳寺では生えていなかった髭が生えている。
豊臣秀吉は髭が薄いことを気にして、付け髭を使用していたという説があるので、弟の小一郎も付け髭かもしれない。
そういうことにしておこう。
すっかり力を取り戻した小一郎は、兄に天下一統の道への決意を語る。
どうせなら皆の前で表明を、とした秀吉は、宴を開き身近な者を集めた。
その宴席に、兄弟が月代(さかやき)姿で登場。
ここでかあ!と声が出た。
月代そのものは戦国武将の髪型として珍しくない。
だが、本作の羽柴兄弟はこれまで総髪姿で描かれてきた。
志を新たに、兄弟での天下取りを決意したとたん、そろってこの姿である。
物語はここから、確実に天下取りモードに入るのだ。
秀吉は、皆が笑ってともに生きる世を作るのだと、チーム羽柴、羽柴ファミリーに宣言した。小一郎の
「これより我らが進む道は、遠く、険しく。楽しき道じゃ」
羽柴兄弟から『豊臣兄弟!』に向かって、楽しき道でありますように!
次回予告。
この男が兄弟の前に立ちふさがる。徳川家康(松下洸平)!
最強のライバル。真の意味で戦国の世に終止符を打つ人物である。
家康に攻撃の機会だ、アタックチャンスだと促す北条氏政(谷原章介)。
家康が抱き締めてるのって、もしかして長丸、未来の江戸幕府将軍ですか?
34話が楽しみですね。
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NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』
【作】八津弘幸
【音楽】木村秀彬
【語り】安藤サクラ
【出演】仲野太賀、池松壮亮、吉岡里帆、浜辺美波、菅田将暉、坂井真紀、宮澤エマ、大東駿介、松下洸平、山口馬木也、宮﨑あおい、小栗 旬 ほか
【時代考証】黒田基樹、柴 裕之
【制作統括】松川博敬、堀内裕介
【プロデューサー】高橋優香子、舟橋哲男、吉岡和彦(展開・プロモーション)、国友 茜(広報)
【演出】渡邊良雄、渡辺哲也、田中 正
※このレビューは、ドラマの設定をもとに記述しています。
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主な参考文献:
ルイス・フロイス(著)/松田毅一・川崎桃太(翻訳)『完訳フロイス日本史・豊臣秀吉編 合本』中公文庫,1999年
筒井紘一(翻訳)『利休聞き書き・南方録 覚書』講談社,2016年
和田裕弘(著)『織田信長の家臣団──派閥と人間関係』中公新書,2017年.
太田牛一(著)/中川太古(現代語訳・注)『地図と読む・現代語訳 信長公記』KADOKAWA,2019年
永原慶二(著)/本郷和人(解説)『戦国時代』講談社学術文庫, 2019年.
神津朝夫(著)『茶の湯の歴史』KADOKAWA,2021年
黒田基樹『羽柴秀吉とその一族――秀吉の出自から秀長の家族まで』角川選書, 2025年.
柴裕之『羽柴秀長――秀吉の天下を支えた弟』角川選書, 2025年.
黒田基樹『羽柴秀長の生涯――秀吉を支えた補佐役の実像』平凡社新書, 2025年.
黒田基樹・柴裕之〔編〕『羽柴秀長文書集』東京堂出版, 2025年.
桑田忠親(著)『豊臣秀吉研究 上・下』角川選書.2025年
河内将芳(編著)『秀吉と豊臣一族研究の最前線』山川出版社,2025年
黒田基樹・柴裕之(著)『戦国武将列伝・別巻2 豊臣編』戎光祥出版,2026年