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柚木麻子さん「私の新刊『BUTTER』も経済小説だと知ってびっくり」

  • 撮影・千葉 諭、岩本慶三(柚木さん) 文・一澤ひらり

さらに柚木さんを驚かせたのが、世界でも指折りの巨大企業ならではのスケールの大きな考え方だ。

「ハイブリッドカーの『プロメテウス』は1台売るごとに100万円の赤字が出る。でも、トヨトミ=エコカーのイメージが世界中に定着すれば、宣伝効果でお釣りがくるとか、武田の腹心のロビー活動をしている部長が、アメリカで秘書にセクハラを訴えられて10億円の和解金を払うことになっても、ロビイストとしての仕事の価値は1千億や2千億ではきかないから決して高い金額ではないとか。もうスケールが大きすぎて価値観がゲシュタルト崩壊を起こしますよね。1台100万のマイナスって、大失敗じゃん!って思いますけど(笑)」

なによりも将来予想される国内市場の先細り、自動運転化の波、技術の衰退など、日本の自動車産業を取り巻く状況の厳しさが非常にリアルに伝わってくる、と柚木さん。

「あまり日本経済の将来を考えたことはなかったんです。でも超氷河期のときに大学を卒業して、製菓メーカーに勤めて乳製品やデパ地下のケーキの価格を調べたり、同じ値段のホールケーキをいくつも買ってきてイチゴが何個飾ってあるか数えたり、経済の動向を知るために経験してきたことはあるんですね。トヨトミと比べたらあまりに些細な話ですけど(笑)。それでもこの本に出てくる話はそれなりにわかるし、実に興味深く読めました」

普段知ることができない業界の内部事情がわかってくると新聞の経済欄の読み方も変わりそう、と柚木さん。

「自動車産業の記事とか、注目度が増しますよね。ほかの業界にも関心が向いていくんじゃないかと。これからはもうちょっと経済欄も深読みしてみたいです。どこに小説のヒントが転がっているかわかりませんからね」

柚木さん新刊『BUTTER』新潮社1,600円。

『クロワッサン』955号より

●柚木麻子さん 作家/2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞、’15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『伊藤くん A to E』『奥様はクレイジーフルーツ』など多数。

●堺 憲一さん 東京経済大学学長/1948年、大阪府生まれ。東京経済大学教授。2014年より学長。新聞、週刊誌に書評、評論も執筆。著書に『この経済小説がおもしろい!』ほか多数。

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