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山崎ナオコーラさんの歴史小説嫌いは治せない!?

戦国小説が苦手という山崎ナオコーラさん。それでも、天野純希の『破天の剣』に描かれた武将の悲哀は胸に迫ってきて。
  • 撮影・千葉 諭 文・一澤ひらり

山崎ナオコーラさんに文芸評論家の末國善己さんが、おすすめの戦国武将小説5冊を推薦。食わず嫌いの人でも読める作品が揃いました。

『破天の剣』天野純希

名将揃いの島津4兄弟のうち、軍略家として名高い家久に着目している。好きなことは熱心だが、嫌いなものには目もくれないやんちゃな家久は本当に魅力的。戦争が嫌いなのに戦えば勝ってしまう家久の苦悩は胸を打つ。(角川春樹事務所 780円)

『 黎明に起つ』伊東潤

老獪な陰謀家とのイメージを覆し、まったく新しい北条早雲を描いている。現代の政治家が、格差の解消に消極的に見えるだけに、民が飢えず安心して暮らせる理想の国を作るために奮闘する早雲には、深い感動がある。(NHK出版 1,600円)

『某(それがし)には策があり申す』谷津矢車

智将、義将とされてきた島左近を、特定の主君に仕えない非正規社員のような武将とした異色作。関ケ原の合戦で奮闘する左近に刺激された味方が勢い付くところは、諦めなければ再起できるとのメッセージになっていた。(角川春樹事務所 1,500円)

 『治部の礎(じぶのいしずえ)』吉川永青

石田三成は、冷徹で人望がなかったとされてきたが、著者は乱世を終わらせる大義のため敵役を演じたとする。三成の死後もその大義が受け継がれたとする展開は、いつの時代も古びない価値観があることを教えてくれる。(講談社 1,850円)

『光秀曜変』岩井三四二

明智光秀は55歳の時に本能寺の変を起こしたとされてきたが、近年は67歳ともいわれている。本書はこの新説を踏まえ、斬新な光秀謀叛の動機を作っている。老いが光秀の精神と肉体を衰えさせていく終盤は、せつなく感じられる。(光文社文庫 780円)

人殺しをヒーローにするのは嫌だ。山崎ナオコーラさんが鎧姿も凛々しい戦国武将たちの英雄譚を拒否してきた理由は、このひと言に尽きる。

「もともと歴史小説が好きになれなかった理由のひとつに、戦争をして大勢殺してきた人でも昔の人なら肯定してもいいの?っていう疑問があったんです。ビジネス本にありがちな企業の経営戦略と戦争の戦略を重ね合わせて、ビジネスマンが尊敬する武将の生き方を仕事に活かすっていうのもちょっと理解に苦しみます。今回、『破天の剣』の推薦文に〝戦争が嫌いなのに戦えば勝ってしまう〟とあったところに興味が湧いて、戦国武将だってみんながみんな戦好きとも限らないし、彼らが抱える懊悩もわからない。もっと柔軟に考えられればと思ったんですよね」

作者の天野純希さんが1979年生まれで、山崎さんとは1歳違い。同世代なので育ってきた時代環境は同じだから、考え方も似ていて読みやすいかも、というのも選んだ理由。

『破天の剣』の主人公は薩摩の戦国大名・島津貴久の四男、家久。3人の兄とは母を異にし、極度の学問嫌い、口下手で、礼儀作法も身につかない野生児のような男だが、「軍法戦術に妙を得たり」と評された天性の戦上手。島津家念願の九州統一のために活躍するが、やがて島津家の前途には、日本統一の野望に燃える豊臣秀吉が巨大な壁となって立ちふさがる。

『破天の剣』天野純希 角川春樹事務所 780円
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