その一方で、この作品はSF小説でありながら、著者のカート・ヴォネガット・ジュニアの戦争体験に基づく半自伝的小説としても評価が高い。
「読んで知りましたが、ヴォネガットは戦時中、捕虜としてドレスデンの無差別爆撃の現場を目の当たりにするという、言葉では言い尽くせないような悲惨な経験をしているんですね。たぶん戦争のことをそのまま描くには心が耐えられなくて、こうした書き方をしているのだと思います。私の好きなティム・オブライエンとか、開高健とかは、戦争がトラウマになって書かずにはいられなくて、繰り返し書くわけですけど、どうしても私小説的な書き方にならざるを得ないんですよね。逆にこんなに明るくて、明るいからこそ影も濃く見えるんですけど、こういう手法でポップに書くというのには驚かされました。おそらくこうでしか書けなかったんだろうなって。却って、影の深さが胸に迫ります」
たとえ戦争のように人間性が奪われるような環境下においても、いかにユーモアや人間性を失わずに済むかというテーマを、ヴォネガットはSF的手法で昇華していったのではないか、と。