酒徒のまんぷく中国まるかじり vol.6──真夏の上海、羊と朝酒
イラストレーション・小野寺光子
上海には、一年で最も暑い時期「三伏天(サンフーティエン)」に羊肉を食べ、英気を養う「伏羊(フーヤン)」という風習がある。
暑さに弱った身体をいたわるなら、冷たいものでも食べたくなりそうだが、伏羊は逆である。羊肉をしっかり腹に入れ、汗をかき、身体の内側から暑気を追い払う。いかにも中国らしい養生法だ。
この風習は上海郊外に色濃く残り、場所によっては未明の3時、4時から羊肉店が開くという。しかも、羊だけではない。早朝から酒まで飲むらしい。
中国では、明るいうちから酒を飲む人は意外に少ない。中でも上海人は、全国的には酒に淡泊な方だ。その上海で朝から羊を喰らい、杯を傾けるというのだから、これは見届けねばならない。
7月下旬の日曜の朝、市中心部からほど近い真如(しんにょ)へ向かった。店の開店は7時。到着すると、既に年配客の列ができている。扉が開くや、皆、注文カウンターへ殺到した。
私も白切羊肉(バイチエヤンロウ)、羊脚(ヤンジァオ)、羊雑湯(ヤンザータン)を注文した。黄酒(ホアンジウ)の瓶を手に席に着き、周囲を見渡す。いた。向こうの卓では老人たちが白酒(バイジウ)を酌み交わし、別の卓では黄酒をゆっくり舐めている。
なるほど、話は本当だった。うれしくなって、こちらも栓を開けた。朝7時台の酒は、やはり妙に旨い。
上海の伝統的な羊肉料理では、羊と言いつつ、山羊を使うことが多い。白切羊肉は皮、肉、ゼラチン質が美しい層をなし、羊脚はむっちりした皮と骨際のこりこりが楽しい。羊雑湯は、山羊の旨味が濃く溶けたスープにレバー、血、胃、肺などがごろごろ入り、葉にんにくが散らしてある。箸休めには鹹菜毛豆(シエンツァイマオドウ)。青菜の漬物と枝豆の冷菜で、羊肉の合間にも、酒のつまみにもいい。
白切羊肉をつまみ、羊雑湯をすすり、鹹菜毛豆で杯を重ねた。周囲では、赤ら顔の老人たちが楽しげに談笑している。やがて、黄酒の瓶は空になった。
店を出ると、朝の光はもう眩しいほどに満ちていた。ふらふらと光の中へ歩き出しながら、まだ一日は始まったばかりだと思うと、なんだか無性に愉快だった。
鹹菜毛豆
xiáncài máodòu(青菜の漬物と枝豆の冷菜)
塩気ほどよく枝豆こりこり酒を呼ぶ。
【材料】
鹹菜(高菜漬けで代用可)…150g
枝豆(莢つき)…250g
にんにく…1かけ
油…大さじ2
A[醤油…小さじ1/2、砂糖…小さじ1/2、水…大さじ1]
【作り方】
枝豆は塩ゆでし、莢から豆を出して薄皮を除く。鹹菜は洗い、塩気が強ければ水にさらす。水気をよく絞ってみじん切りにする。にんにくは包丁の腹で潰す。中華鍋に油とにんにくを入れて強火にかけ、香りが立ったら鹹菜を加え、水気を飛ばすように炒める。枝豆を加えてさっと炒め、混ぜたAを回し入れ、汁気がなくなるまで炒める。鹹菜をしっかり炒め、香りを立たせるのがコツ。
『クロワッサン』1173号より
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