事前の準備が何より大事。親孝行旅という一大プロジェクト
イラストレーション・村上テツヤ 文・保手濱奈美
親が高齢になると、親だけで旅行をするのはなかなか難しい状況に。時にはどこかに連れて行ってあげたい──、そんな親孝行旅を計画するには何を心がけておくとよいのだろう。温泉エッセイストで、親孝行旅にまつわる新聞連載も持つ山崎まゆみさんは、こう話す。
「シニア世代で旅慣れていない方は、遠方に出かけることに対して、ナーバスな場合が多いものです。うれしい半面、足腰が弱くなってきているので疲れそう、他人に迷惑をかけてしまうのではないかといった不安が一因に。あまり乗り気ではない様子に心が折れそうになるかもしれませんが、そこはグッと我慢。“また今度”と思っていると、親の体調が急に悪くなって、次の機会がなくなってしまうこともあるからです。それに私の経験では、最初は面倒くさがっても、行けばそれが親の自信になり、むしろ生き生きとする。親がある程度動けるうちは、少し強引にでも連れ出していいと思います。思い出になるので、自分のためにも辛抱強く取り組むことをおすすめしたいです」
具体的に旅の計画を立てる段階になった時に、最優先事項として考えておきたいのは、親の体の状態のこと。
「特に離れて暮らしていると、歯が弱って硬いものが食べられなくなった、などの変化に気づかないことがあります。体の状態次第で旅先、宿の選び方、移動手段が変わるので、“親の現在地”を本人にリサーチしておきましょう。そのうえで重視したいのが、宿選び。高齢者の受け入れに慣れている宿を選ぶことが第一で、旅先で何かあった時にも心強い。宿を拠点に近場で観光を考えるのが、親孝行旅の基本です」
そのほか、移動や立地など、押さえておきたいポイントを紹介。準備を整えたら、あとは自分も楽しんで!
親孝行旅、心しておきたい5カ条
⬜︎ ためらっている時間はない。思い立ったら、すぐ行くべし
「高齢の親の体力はある日突然ガクッと落ちるもの。親孝行旅行を思い立ったら先延ばしせず、すぐに行動しましょう。私の親は当日ドタキャンしようとすることもありますが、体調ではなく気分的な問題なら説得して連れ出します」
⬜︎ 「温泉」「近距離」「1泊」がベース
「温泉はシニアに人気の旅先。滑って転んでしまうかもという心配も、子どもと一緒なら安心です。車や電車に乗って1時間以内で行ける場所が心身に負担が少なく、まずは1泊で無理なく成功体験を作れるといいでしょう」
⬜︎ 何より大事なのは、普段の親の体の状態を知ること
「トイレ、移動、食事という日常の基本動作に支障がないか、確認しておきたい。ただ、“できないこと”を聞いても言いたがらないと思います。『近所のスーパーには徒歩で行っているの?』など、さりげなくリサーチを」
⬜︎ 費用はまず、自分が払う気持ちで声をかける
「年金暮らしなど親の経済状況を考えると、現実的なのは子どもが負担すること。自分が誘う立場でもあるので、全部出すつもりでいましょう。旅先のお昼ご飯など、親が出してくれると言ったら甘えるのもありかと思います」
⬜︎ 日程は、できれば平日がベター
「目的地が混雑していると転倒、疲労、ストレスのリスクに繋がるので避けたいところ。親孝行旅は、できれば平日に行くのがおすすめです。高齢の親は平日でも都合がつきやすいと思うので、自分の予定が合うようなら平日に」
親孝行旅の4大チェックポイント
1. 宿
高齢者を受け入れ慣れていることが宿選びのポイント。その見分け方は? 「ひと手間にはなりますが、親の体の状態を、電話かメールでできるだけ具体的に伝えること。面倒くさがらず対応してくれたら安心です。足腰の負担軽減を考慮し、部屋は椅子があるタイプを」
⬜︎ 事前に電話やメールで具体的に聞いてみよう。
「お部屋はどんな感じですか?」
↓
Good!
「腰が悪いのですが、ベッドのお部屋はありますか?」
「シニア世代は畳敷きの和室を好みがちですが、布団だと腰に負担がかかってしまいます。畳でもベッドが置かれた部屋もあるので、理由を伝えてリクエストしてみてください」
「食事はどんな内容ですか?」
↓
Good!
「嚥下に不安があるのですが、魚の骨を除いてもらうことはできますか?」
「高齢者ならではの食事のしづらさも、具体的に相談を。例えば、魚は骨を取ってもらいたい、肉は薄く切ったり、柔らかく煮たりしてほしいなど、希望を伝えましょう」
「脚が悪いんです」
↓
Good!
「膝が悪くて上り下りがつらいのですが、段差はありますか?」
「『脚が悪い』など抽象的な表現ではなく、懸念点を具体的に伝えましょう。バリアフリーがベストですが、段差を通らず行ける部屋の案内など、何かしら対応してくれる宿を選んで」
⬜︎ お風呂はここをチェック
湯船タイプは置き型か、手すりがあるか
「床掘り式の湯船は、屈伸運動が必要になるので高齢者には負担になることが多い。湯船は置き型か、手すりがあると安心です」
大浴場に近い部屋を確保できるか
「大きなお風呂に浸かる非日常も旅の醍醐味。ただ、場所が遠いと不満に繋がりやすいので、大浴場に近い部屋を取れるか要確認」
部屋風呂があるか
「大浴場への移動がなく見守りもできるという点で、温泉の部屋風呂があるのが理想的。自分のペースで入れるのもうれしいはず」
2. 移動・立地
⬜︎ マイカーがベスト。公共手段なら「乗り換え1回まで」を基準に。
⬜︎ 指定席が基本。取るときは「トイレの近く」を。
⬜︎ 駅から宿へのアクセスがよいところを選ぶ。
移動手段は飛行機以外で考えたいところ。「理想はドアtoドアで行けるマイカーです。電車やバスで行くなら、体力的になるべく負担のかからないコースや宿の立地を選びましょう。乗り換えはなし、または1回で済むように。新幹線や特急に乗る場合は、指定席を予約。確実に座れるようにするのはもちろん、トイレの近くの席を選ぶのがベターです。駅やバス停から宿は徒歩圏内、あるいは送迎がついていると、疲れを最低限に抑えられます」
3. 食事
⬜︎ 普段食べているもの、食べられないものの確認を。
⬜︎ 朝昼晩の食事のリズム、量も把握する。
⬜︎ サプライズを仕込むのも思い出に。
食事に関しては、普段の食生活をリサーチ。「例えば、魚をよく食べているなら、旅先でも食べ慣れている魚が好まれます。硬い食べ物など体の機能的に難しいものはもちろん、苦手も聞いて避けること。食事の量に関しても、シニアは1日3食とは限りません。朝食べると昼はいらないなど、確認しておきましょう。また、宿によってはサプライズに対応してくれるところも。親の誕生日など記念の旅なら、ケーキを用意してもらうのもあり」
4. 観光
⬜︎ 歩く範囲は、「普段の散歩」+α程度にとどめる。
⬜︎ 何よりしておきたいのは、記念撮影。
⬜︎ 神社仏閣含め、行きたいところのバリアフリー度合いをチェック。
観光も親の体の状態次第。「どれくらい歩けるかは、スーパーなど普段徒歩で行っている距離から換算。例えばそれが1kmなら、旅ではポテンシャルが上がる場合もあるので1km+αが目安。同時に、観光場所のバリアフリー度合いを確認しましょう。寺社の場合は、車いすを貸してくれるところも多くあります。また、ぜひやっておきたいのが、一緒にたくさん写真を撮ること。いつか遺影にしたくなるほど、旅先ではいい表情が撮れるのです」
『クロワッサン』1169号より
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