映画 『ゴッドランド/GODLAND』、神を信じていない者が神の土地へ行く。
文・黒住 光
映画『ゴッドランド/GODLAND』
19世紀後半、デンマークの若き牧師ルーカスはアイスランドの辺境の地に教会を建てるミッションに赴くが、異文化の地で待ち受けていたのは……。監督:フリーヌル・パルマソン 出演:エリオット・クロセット・ホーヴほか 3月30日より、東京・シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
キリスト教を異国に伝道する宣教師を描いた映画と言えば、例えばロバート・デ・ニーロとジェレミー・アイアンズ共演の『ミッション』(’86)や、遠藤周作の原作をマーティン・スコセッシが映画化した『沈黙–サイレンス』(’16)などが思い浮かぶ。
その手の映画で気になるのは、宣教師の目には赴任先が「未開の地」であり、「人々にキリスト教の光を与えてやらねば」と思っている上から目線な部分だ。
『ゴッドランド/GODLAND』は19世紀のデンマークからアイスランドへ教会を建てるために渡った牧師の物語。カソリックの神父ではなくプロテスタントの牧師だが、やはり「上から目線」なのは変わりない。
この映画がユニークなのは、そういう伝道師の嫌らしさを真正面から描いているところだ。当時のアイスランドはデンマークの植民地で、主人公の牧師はアイスランド人を見下している。……とくれば、普通なら現地の人と触れ合ううちに主人公が自身の偏見を反省するという筋立てになりそうなものだが、そうはならない。彼は最初から最後まで、自分のことしか考えていない。
普通の「伝道師もの」では、物理的に苦しいハードな環境、精神的に苦しいカルチャーギャップの中で、信仰が揺らぎそうになる伝道師の葛藤がドラマの核になる。ところがこの映画では、そもそも揺らぐも何も、牧師はハナから信仰よりも自分が大事な利己的な男なのだ。現地で出会う、生き方を変えて救われたいと願う男を救おうともしない。そういう人間の愚かさを描く映画だ。
しかし、愚かな人間を「上から目線」で見つめている存在がある。アイスランドの荘厳な大自然だ。
人間を寄せつけないような、厳しくも美しい極北の自然。キリスト教圏の人々はそれを神の隠喩と感じるのかもしれないし、日本人の文化ではごく当たり前に自然こそが畏怖すべき神だ。愚かな人間の姿を見下ろす大自然。それを捉える冷徹なカメラ。これは極北のリアリズム映画である。
\ココが見どころ!/
ドラマの進行はあくまでスローテンポ。雪と氷と噴き出す溶岩というアイスランドの大自然の風景をたっぷり見せることに比重が置かれているので、ネイチャー系ドキュメンタリーのような味わい。本文でも述べたとおり、自然の存在がテーマと深く関わっているからです。主人公への共感や、ドラマチックな心地よい感動を求める人にはオススメできません。クールに人間社会を俯瞰する作品(ちなみに実話風ですがフィクションです)。
『クロワッサン』1113号より
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