くらし

映画『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』一歩踏み出す勇気が幸せにつながります。

  • 文・山縣みどり
夫の浮気を機に、スーツケースひとつで家を出た63歳のブリット=マリーだが……。

テレビでサッカー観戦に夢中の夫をよそに、家の片づけに余念がないブリット=マリー。「何かを蹴りたいと思ったことはない。問題はたいてい、ベーキングソーダで解決できるから」が持論の彼女だけど、夫の浮気相手はベーキングソーダでも消せなかった!? スーツケース片手に家を出たブリット=マリーは、職業安定所で見つけたユースセンターの管理人兼サッカーコーチ職に飛びつくが……。

家事を完璧にこなす毎日のなかで笑顔も忘れたブリット=マリー。

口をへの字に曲げ、ニコリともしない60代の主婦が勝手のわからない世界で、戸惑いながら自分の居場所を見つけるまでをユーモラスに綴る人間ドラマだ。

女性の社会進出が当然のスウェーデンで40年も専業主婦だったヒロインはある意味、化石のような存在。完璧に整えた家は、彼女の要塞でもある。だから、殻を破ったブリット=マリーが直面するのは、家事技術だけではどうにもならないことばかり。住む場所も探せず、サッカーチームの子どもにもナメられっぱなし。

そんな彼女に多くの人が助けの手を差し伸べるのもまたお国柄かもしれない。親切なやもめの警察官や気さくなピザ屋主人との出会いが、孤独だった彼女を徐々に変えていく。そしてサッカー選手を目指す移民少女を見ながら昔の夢を思い出した彼女は、自分自身を愛することの大事さにも気づく。

都会から離れた小さな町での仕事はユースセンターの管理人兼やんちゃ盛りの子どもたちが揃うサッカーチームのコーチ。

お約束の展開とはいえ、ブリット=マリーを演じる女優ペルニラ・アウグストの演技にリアリティが感じられるので説得力抜群。前半と後半で表情や口調が鮮やかに変貌し、ある決断をした終盤の輝きたるや! さすがはスウェーデンが誇る名女優だ。

戸惑う日々のなかで、警察官のスヴェンだけは彼女に優しく応対をする。

「整った家はあなた自身を表す」「リストは必要。整理整頓で人生は安定する」「人生は夕食と同じ。目的を定めることが重要」といった格言めいた台詞も胸に沁みる。勇気を出して一歩踏み出せば、幸せが待っている、と前向きな気持ちになれる快作だ。(文・山縣みどり)

『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』
監督:ツヴァ・ノヴォトニー 出演:ペルニラ・アウグスト、ペーター・ハーバーほか 7月17日より東京・新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。https://movies.shochiku.co.jp/bm/

(C)AB Svensk Filmindustri, All rights reserved

『クロワッサン』1025号より

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