くらし

坂東玉三郎の究極の美を映画館で堪能。シネマ歌舞伎特別篇『幽玄』

  • 文・望月リサ 撮影・岡本隆史

坂東玉三郎が当代随一の女形だと言われる理由は、ずばりその美しさにある。そう書くと、結局大事なのは生まれ持った容姿なのかとがっかりされてしまうかもしれないけれど、それは早計というもの。じつは玉三郎という人は、歌舞伎俳優のなかでも背が高く、意外にしっかりとした体つきで、けっして女形向きの体形だとはいえない。しかし、そのウィークポイントをそれと感じさせないのは、その高度なテクニックによるもの。相手役と並んだ時に小さく見えるよう膝を曲げ、華奢に見える角度に体を捻って立つ。客席から見れば非常に美しい姿勢だけれど、実際には不自然な角度で体をキープする必要があり、そのために過酷なトレーニングを毎日おこなっているのはよく知られた話だ。

「石橋」では、獅子の精に扮した玉三郎以下、踊り手たちによる勇壮な毛振りの迫力に圧倒される。

また玉三郎は、高い美意識を持ち、古典のみならず、オペラやバレエ、音楽など世界の芸術・芸能に精通し、確かな審美眼を持つ人でもある。有名なのは、衣裳へのこだわりだろう。玉三郎は自身の当たり役と言われる多くの役において、既存の衣裳ではなく、自ら職人に依頼し新たに製作したものを使用している。柄や色味など何度も打ち合わせを重ね作られるそれは、細部まで職人の粋が凝らされ、美術品にも匹敵するほど。玉三郎の美しさは、ストイックな鍛錬と情熱、徹底した“美”への追求が生んだものなのだ。

「道成寺」の幻想的な演出のなか、冒頭はゆったりと始まった舞が、徐々に激しく変化していく様に注目。

その玉三郎が自ら企画、主演・演出に加え、映像編集・監修を務めた舞台が『幽玄』だ。これは、新潟・佐渡を拠点に活動する太鼓芸能集団 鼓童とのコラボレーションで上演され、能の代表演目「羽衣」「道成寺」「石橋」を題材にした3演目で構成。能の大成者である世阿弥の求めた“幽玄”の世界を舞台上に描き出すというもの。能楽を鼓童による太鼓で表現した音楽の斬新さと、その音色が生み出す力強さと、低音のプリミティブな響き。そこに一分の隙もない玉三郎自身の舞。シンプルな装置に計算され尽くした照明が、劇場空間を荘厳な雰囲気に変え、まさに幽玄とも呼ぶべき究極の美が体現されていた。

今回、この舞台がシネマ歌舞伎として映画館で上映される。特別映像として、インタビューや稽古風景も公開。巨大スクリーンで“玉三郎の美”に、ただただ圧倒されてほしい。

シネマ歌舞伎 特別篇 『幽玄』

演出・出演:坂東玉三郎 出演:太鼓芸能集団 鼓童、花柳壽輔、花柳流舞踊家 
9月27日から東京・東劇ほかにて全国公開。
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/41/

『クロワッサン』1005号より

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