くらし

『環と周』著者、よしながふみさんインタビュー。「逢えてよかった、という想いは恋愛でなくてもいいかなって」

  • 文・遠藤 薫(編集部)

「逢えてよかった、という想いは恋愛でなくてもいいかなって」

よしながふみさんによる、16年ぶりの最新作。「そんな久しぶりに?」と多くが思うだろう。2023年秋、ドラマのシーズン2が始まった2つの大作、『大奥』は2004年連載開始、『きのう何食べた?』は’07年から現在まで続いていて、我々はよしながワールドに魅入られ続けている。そして今、新たな登場人物に逢える喜びよ。

本書は時代の異なる5つのオムニバス。現代、明治、’70年代など。ふたりの主人公、環(たまき)と周(あまね)がある時代では夫婦、違うときは女学校の同級生、軍の上司と部下などとして出会う。

「16年ほど前から、時を超えてめぐり合う話を構想していました。時系列でなく順序をバラバラにすることも。話は恋愛寄りでと」

名前のつかない関係での人の結びつきだってある。

しかしその設定は変わっていった。

「ふたりの関係性を決め込まなくてもいいかなと思うようになりました。それから環と周の性別も男女どちらに入れ替わってもよいかと。恋愛も友情もあるけど、アパートのお隣どうしみたいな名前のつかない関係性でもいい。要は出会ってよかった、『短いひとときではあるけれどこの人と逢えてよかった』という想いが読者と共有できればいいんじゃないかって」

本作でも、また『きのう何食べた?』『大奥』でも、新しい関係性で人の結びつきを描いている。料理好きの恋人たちはゲイカップルであり、徳川政権下、政を行うのは女性だ。固定されたジェンダーロールや、時に恋愛からも解放されることで、〈人どうしが想いあうこと〉は純度が増して、輝く。多様性の受容とは果たしてこういうことであり、時代が今、よしながさんに追いついた感がある。

「そんなことは決してないと思います。そもそも私はこれまで、時代に乗れていたと思ったことが一度もないですから。女子高生のときは女子高生文化に乗れなかったし、今も特段乗れている気もしません(笑)。現代は、王道といわれるもの、マジョリティが少なくなっているのだと思います。少女漫画誌でも必ずしも恋愛ものじゃなくてよくなってきている。それが多様性の時代ということなのではと思います」

そしてよしなが作品の楽しみのひとつは、美味しそうな食べ物の描写だ。本作にも物語の重要なモチーフとして登場する。

様々な立場で出会うふたり、環と周。その時代時代の社会の制約に翻弄されながらも心が求め合う。

「食べることは人類共通の体験で、思い出とも重なりやすい。誰かと仲良くなったり昔のことを思い出すツールになるので」

女学生の装いや戦後の風景、各時代の描写も細やか。5つの物語を貫く仕掛けもあるが、どこでそれに気がつくか、お楽しみに。

漫画誌『ココハナ』での連載に描き下ろしのエピローグを加えて単行本化。 集英社 748円
よしながふみ

よしながふみ さん

1971年、東京生まれ。「月とサンダル」で商業デビュー。『西洋骨董洋菓子店』『フラワー・オブ・ライフ』など作品多数。『大奥』で第13回手塚治虫文化賞マンガ大賞、第42回日本SF大賞など多数受賞。次回作は芸能界が舞台の作品の予定。

(C)よしながふみ/集英社

『クロワッサン』1104号より

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