「こまけえことはいいんだよ」とはメリの、「ふうん。どんな」とはジュンの言葉。さらに二人の会話はカギカッコの垣根も超えて、地の文の語りにも混ざっていく。この手触りがまたふわりと心地よい。
最初に書かれたのは第2章にあたる「林檎料理」。『エイリア綺譚集』にも収められている短編だ。
「知人の同人誌へ寄稿するために書いた、大手拓次の詩にインスパイアされた短編です。次に雑誌の依頼で『きの旅』を書き、これが短歌を探しに行く話になったことで、二人が不思議な表現や面白い言い方をハンティングするという作品の方向性が決まりました」
萩原朔太郎、ランボー、石川美南、シュペルヴィエルに最果タヒ。二人が出合う詩歌の数々はどのようにして選ばれているのだろう。
「一番好きな詩人である萩原朔太郎の一番好きな詩で第1章を書き、そろそろランボー欲しいな、ディキンソンいってみようか、古典も入れようと順々に。昨年全集が刊行され、ついに広く読まれるようになったモダニスト詩人・左川ちかを最後に据えました。引用という形では長くなりすぎてしまうため泣く泣く諦めた詩もあります」