「裏側の人たちの走り回るさまというか、表に出てくるものをどれだけの人たちが支え作っているのかを描いてみたかった」という永井紗耶子さん。言葉のとおり、あだ討ちを証言するのは、芝居小屋で舞台を支える面々。
一八はじめ、剣術指南役、衣装係に小道具係、戯作者といった5人がことの顛末を、そして己の来し方を語り出す。みな職種も出自も異なりながら、何かしらを抱えて悩み、最後に芝居小屋に行き着いた者たちだ。
実は書き始め、それぞれがどんな人生を歩むのかはぼんやりとしか決めていなかったという。
「年齢と見た目の映像くらいが頭にあり、あとはその人の前にレコーダーを置いて『はい、あなたの人生を話してください、どうぞ!』という感じで書いていったんです。なので途中『えっ、そんな人生だったの!?』ということも」
思いがけない展開に、慌てて新たに資料をかき集めることもあったという。が、各人が内に抱えてきたものを語るうち、読み手はその人生に引き込まれ、いつしか旧知のように感じてくるから不思議だ。