くらし

どう選ぶ? 何を使う?フライパン基礎講座。

さっと取り出し、火にかければ、焼く、炒めるはもちろんのこと、蒸し料理や煮物、揚げ物も可能。
麺を茹でるのも、ご飯を炊くのも、ケーキを焼くことだって大の得意。
あらゆる調理法を難なくかなえる万能選手、それがフライパンです。
  • 撮影・青木和義、三東サイ、黒川ひろみ  イラストレーション・塩川いづみ 文・小沢緑子

ここまでできる! フライパン。

【蒸】蒸し器がなくても、フライパンで代用可能。できるだけ深めのものを使い、クッキングシートやフタを上手に使って加熱するだけでおいしく蒸し上がる。慣れれば茶碗蒸しも気軽に作れるように。試さない手はありません。
【焼】肉や野菜をおいしく焼き上げたいなら、素材の旨みをじっくり引き出す鉄を選ぼう。炒めもの、チャーハン、焼きそばなどを作る頻度が高いなら、深さのあるタイプを選ぶと食材が飛び散らずストレスフリー。
【炊】ご飯もふっくら艶やかに。底面が広く浅いので火の回りがよく、そのぶん早く炊けるのが利点。一方で、水分は飛びやすいので少し多めに加減するのがおいしく炊き上げるコツ。あとにできる香ばしい「おこげ」もごちそう。
【煮】フライパンで煮物を作ると、少ない調味料でも具材に均一に味が染みるというメリットが。最初に具材をサッと炒めてから煮ることができるのもフライパンならではのよさ。調理器具を減らすことで、片づけもぐっとラクに。

どう選ぶ? 何を使う? フライパン基礎講座。

「これひとつでいろいろな調理ができるフライパンはいちばん便利な道具。ただ種類が多すぎて、本当に使える一枚を探すのは至難のわざ。まずは手持ちのフライパンの不満点を明らかにしましょう。自分にとっての優先順位がわかってきます」と、料理研究家の野口英世さん。

一方、選ぶ際の最初の分かれ道は「ひっつく、ひっつかない問題だ」と語るのは、料理研究家でキッチンまわり評論家のさわけんさん。
「調理中に食材がひっついたり、焦げついたりするのは、大きなストレス。まずはここを解消するだけでも使い勝手のよさは格段に変わります」

選び抜くための重要項目は以下。違いを知って最高の一枚を手に入れよう。

素材の特徴を知って、 賢く使い分けよう。

素材選びは一番の肝。使いやすいコーティング加工を軸に、他の素材を用途に合わせて投入するのがいい。

「食材がくっつくのがストレスになるなら、コーティング一択。表面加工は、層が厚いほど耐久性があり長持ちします。食材を美しくおいしく焼きたいなら鉄があると便利。最初に油ならしをして、毎回よく温めて適切な量の油を使えば、こびりつきもそう気になりません。同じ鉄でも表面を硬化させる黒皮加工や窒化加工を施したものは、くっつきにくい感覚があります」(さわけんさん)

調理にかけられる時間で使い分ける方法も。

「私は時短したいときはコーティング、じっくり料理と向き合いたいときは鉄を使います。アルミ、ステンレス、銅素材は、火加減などにちょっとしたテクニックが必要で、どちらかというと料理中級者以上向け。特定の目的に合わせて使い分けるのがいいと思います」(野口さん)

種類【コーティング】

●特徴
アルミの地金にフッ素樹脂加工を施したものが代表的。食材がくっつきにくく腐食に強いが高熱に弱い。耐久性を増すためにダイヤモンドや大理石の粒子を混ぜるなど表面加工の種類は豊富。

●こんな料理に
焼く、炒める、煮る、蒸すなどオールマイティ

種類【鉄】

●特徴
鉄板を型抜きするか、叩いて成形するプレス式、鋳型(いがた)に溶かした鉄を流し込む鋳鉄(ちゅうてつ)製がある。耐久性と蓄熱性に優れ高温調理できるのが利点。重いのと手入れを怠ると錆びやすいのが弱点。

●こんな料理に
ステーキ、ハンバーグなどじっくり焼きたい肉料理

種類【ステンレス】

●特徴
温まるまでは時間がかかるが、保温性が高い。食材によってはくっつきやすいため、火加減にコツや慣れは必要。汚れにくいうえ、丈夫で錆びにくく、見た目がスタイリッシュな点で人気。

●こんな料理に
一度温まると冷めにくいため、焼く、炒め煮が得意

種類【アルミ】

●特徴
軽さと熱伝導率の高さが利点。温度が素早く上がり温まるのが早いので、水分を飛ばしたりサッと火を通す料理に。ただし温度が下がるのも早いため、じっくり焼きたい肉料理には不向き。

●こんな料理に
パスタソースや短時間で手早く炒めたいもの

種類【銅】

●特徴
アルミよりさらに熱伝導率が高い。保温性も高く、全体がすぐ温まり、食材に熱がムラなく均一に伝わるため、焼き色をきれいにつけたい料理に。酸に弱く、酸味のある料理には向かない。

●こんな料理に
火加減が大切な卵料理、ホットケーキなど

【厚さ・重さ】料理の出来映えにも影響する、重要ポイント。

「フライパンの重さは、厚さによる違いです。この重さ、すなわち厚さは、扱いやすさだけではなく、調理するうえでも大切なポイントになります」と、さわけんさん。

軽い=地金に使用する金属が薄いフライパンは、火にかけるとすぐ熱くなり熱ムラが出やすい。常にかき混ぜながら火を通す炒めものなどに向いている。一方、重い=地金に使用する金属が厚いか密度が高いフライパンは、温まるのに時間はかかるが熱ムラが出にくく、全体を均一に焼きたい餃子やじっくり火を通す肉料理向き。

具体的に軽い、重いの目安になる重さとは?

「サイズによりますが、1kgが境界線。たとえば直径26cmで本体が600〜700gなら軽め、1kg以上なら重めといえます。軽すぎると焦げつきやすいので、おすすめは1kgを少し超えたくらい。適度に重いほうが熱ムラが少なく、料理がきれいに仕上がります」(さわけんさん)

【大きさ】家族の人数や調理量に見合うサイズが正解。

フライパンのサイズは、その時々の生活スタイルや、家族の人数によっても必要な大きさが変わってくる。

「今使っているものを基準に、もう少し大きめ、小さめのほうがいいと比較しながら判断すると自分が求めているサイズが見えてきます。目安は、2人で食べ切れるくらいの量なら直径24cm、3〜4人分なら26cm、4人以上なら28cmが推奨サイズです」(野口さん)

「サイズは大きすぎても小さすぎても調理効率が悪くなります。大きすぎると油が余計に必要になりますし、空いている場所の温度が上がりすぎて、フライパン自体の寿命が短くなる可能性も。小さすぎると調理時間が長くなり具材の形が崩れる原因に。普段の調理量に合ったものを選びましょう」(さわけんさん)

【深さ】よく作る料理の傾向に合わせてチョイス。

「深さは料理の傾向で考えます。焼くだけなら3~4㎝の浅め、炒めたり、煮たり、揚げ焼きもするなら5cm以上の深めがストレスフリー。縁の角度も影響します。可能なら実際に商品を手にとり、調理するように手を動かしてイメージするのがおすすめ」(野口さん)

機能的に見ると底が広く具材を返しやすい〈フラット型〉、縁が高い〈深型マルチ〉、底が丸く液体も材料も集まる〈中華鍋型〉の3つに大別される、とさわけんさん。

「日本の家庭料理は炒めものや半煮込み料理も多いので、深型マルチタイプはメインのおかずを作る一枚として頼りになります。中華鍋タイプは炒めもの、揚げもののほか、蒸し板をのせれば蒸し器代わりにも。最近は小ぶりのものがあるので、サブの一枚として使うのも便利です」

【形・フタ】基本は丸型。フタが あるとメニュー豊かに。

「形は、丸型がいちばん火の通りが均一です。長方形タイプは、卵焼きやお弁当のおかずを複数同時に作る時など、目的に合わせて使うのがいいと思います」と、野口さん。

フタは、あるほうが断然メニューの幅が広がる。

「焼く以外に、煮る、蒸すにも対応できますから。ただ、フタより本体のほうが寿命が短く買い換える可能性があるので、わざわざフタ付きを買わなくていい。複数サイズに対応している別売りのフタで充分です。アルミ製が軽くてかさばらないので愛用しています」(野口さん)

野口英世

野口英世 さん (のぐち・ひでよ)

フードスタイリスト、料理研究家

作り手重視の効率的なレシピとスタイルのある食を提案。調理道具にも精通している。著書に『使いやすい台所道具には理由がある』(誠文堂新光社)。

さわけん

さわけん さん

科学する料理研究家、キッチンまわり評論家

調理学校での指導、仏の星付きレストランに料理人として勤務した経験を活かし、メディアで活躍。食品やキッチングッズの比較、検証も数多く行っている。

『クロワッサン』1055号より

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