くらし

プロの清掃人、新津春子さんに教えてもらう、「掃除はやさしさ」の心。

うっすら曇った窓、煤けたカーテン……。
日頃、見て見ぬふりをしていた家のあちこちから、「掃除せよ」の声がする。それでも重い腰はなかなか上がらない。「だって面倒くさいし疲れるんだもの」ならば、簡単で疲れないワザを今こそ習得しようではありませんか。ハウスクリーニングのプロが駆使するテクニックや道具、段取りのアイデア、そこにはすぐ真似できるヒントが満載。
  • 撮影・黒川ひろみ 文・嶌 陽子

「家族が家の中をどう動いてどこを触るか。よく観察すれば、掃除する範囲も自ずとわかります。」

新津春子(にいつ・はるこ)さん●1970年、中国・瀋陽生まれ。日本空港テクノ社員、環境マイスター。著書に『清潔な暮らしは1枚のタオルからはじまる』(朝日新聞出版)、『清掃はやさしさ』(ポプラ社)など多数。

和やかに会話をしながら歩く間も、その目は自然と、空港内のあらゆる場所に向けられていた。

「あ、あそこにゴミが落ちてる」
「モニターが手垢で曇ってますね」

かなり離れた場所にある汚れも見逃さず、すぐに近寄って取り除く。国際的な空港評価において、羽田空港は2019年4年連続6回目の「世界一清潔な空港」に選ばれた。その立役者が新津春子さん。数年前、プロの清掃人としての仕事ぶりがテレビで紹介されると大反響を呼び、今もメディアや講演などに引っ張りだこの日々だ。

「空気の流れやにおいを頼りに汚れを見つけます。頭を空っぽにしていたほうが気づきやすいですね」

中国残留日本人孤児の父親を持ち、17歳の時に一家で日本に移住。収入を得る手段として清掃の仕事を始めた。それからもう30年以上。その言葉には、長い歳月、清掃という仕事に従事してきた人ならではの深みがある。

現在は、後進を育成する指導者的な立場としての仕事がメインだ。月に数度、空港内の清掃状態をくまなく点検し、改善点を指摘。そのほか、企業からも依頼を受け、オフィスビルなどの清掃チェックや指導を行っている。多忙な日々を送る新津さんだが、家に戻れば夫と暮らす一人の主婦だ。新津さんにとって、技術や知識を持つプロとして、仕事で行う「清掃」と、家庭で自分や家族のために行う「掃除」は別のもの。自宅ではどのように「掃除」をしているのか、聞いてみた。

毎朝、タオル1枚を使って前日に触った場所を拭くだけ。

「毎日の掃除は、朝、水で湿らせたタオルで拭き掃除をするだけです。しかも、前の日に自分や夫が触ったところだけを拭く。だって家じゅうまんべんなく掃除していたら疲れちゃうでしょう。家族がどこをどう動くのか、どこをよく触るのか。日頃から観察していれば、掃除する範囲も最小限ですむんです」

たとえばドアノブ、靴箱、椅子など。前日の行動を思い浮かべながら拭いていくのが毎朝の習慣だ。

「触ったところには手垢、つまり手の皮脂や雑菌がついています。手垢は時間が経ってしまうと水拭きでは落ちません。洗剤を使わないといけないし、その後で水拭きする必要もある。かえって面倒でしょう。だから見えていない段階から拭き取ってしまうんです。汚れをため込まない“予防掃除”をしておけば、その後がずっと楽なんですよ」

“ついで掃除”も新津家の大きな特徴だ。拭き掃除用の小さなクロスをキッチンや洗面所などの見える場所に吊るしておき、歯磨きのついでに鏡をさっと拭いたりしている。

「夫に掃除をしてほしいと頼んだことはないですけど、このおかげで自然と掃除してくれるようになりました」

リビングと洗面所には、1台ずつハンディクリーナーを常備。埃や髪の毛を見つけたら、その都度吸い取っている。生活の中に組み込んだ効率のよい掃除をすることで、汚れが定着しない。そのため、大がかりな掃除をする必要はほとんどなし。大掃除といえば、普段は手をつけない天井や照明器具の埃を取ったり、換気扇やエアコンをきれいにするくらいだという。

「普段の掃除の時間はできるだけ短く、でも毎日する。休みの日は、なるべく遊びに行きたいですから(笑)」

休日は朝からヨガ教室に出かけたり、夫と散歩がてら「ポケモンGO」を楽しんだりと、活発に過ごすことが多い。

「夫婦で温泉旅行することもよくありますよ。休みの日に家にいることは、ほとんどないですね」

「掃除とは、家族や自分の健康と安全を守る行為。」

空港内の植栽の中にあった枯れ葉を取り除く新津さん。チェック業務の合間にも、気づいたことがあれば自らすぐに手を動かす。
クロスを使って手すりについた手垢を拭きあげていく。「手だけじゃなくて、体全体を使って拭くと疲れないんです」
窓枠を拭く際は、指の使い方にひと工夫。中央の黒い溝は人差し指で、全体はほかの指を添わせて一気に拭く。
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