くらし

【山田康弘さん×望月昭秀さん 対談】縄文という時代【1】

  • 撮影・青木和義 文・一澤ひらり

不思議がいっぱい。縄文研究は一番面白い領域ですよ。(山田さん)

縄文はポップカルチャー。庶民を感じることができる。(望月さん)

装身具が力の象徴とは限らない。医療行為にも使われた痕跡が。

山田 イレギュラーだったので見に行ったところ、おそらく骨がんだと思いますが、顎関節がひどく変形していて。首飾りは呪術的な医療行為の一環だったのでしょうね。そうした復元が考古学的属性と人類学的属性を重ね合わせることで、かなりできるようになってきました。そういう事例を関連づけて見えるようになってくると、いろいろな世界が広がって考えられるようになります。

望月 なるほど。たしかに装身具をつけた人骨が見つかると、それだけで偉い人なんだろうと片づけてしまいがちですからね。

山田 特別な装身具をつけている人ほど、そういった部分は注意しないと実際とは違うイメージを作ってしまうことになる。こうした人骨や獣骨などをほかの考古学的情報とうまくリンクさせて解釈できたとき、その解釈の広がりが鮮やかなイメージを結んでくれることがある。それが一番楽しいですね。縄文研究は近年、関連領域との共同研究がものすごく進んできているので、考古学の中では一番面白いと思っているんですよ。

望月 なんだかミステリーの謎解きみたいでワクワクしますね。

山田 警察の捜査みたいに事実を一つ一つ積み重ねていって、その過程にはいろんな仮説を立てては潰れ、立てては潰れっていうことがあるわけで、いくつかの事例が重なってこれは確からしいぞということがわかってくる手応えはたまらないです。

望月 そういった王道の面白さはもちろん、僕は現代のカルチャーで縄文を読み解けば、もっと面白いんじゃないかと思っています。縄文以降の日本の歴史って結局、権力者の文化、政治史になってしまうじゃないですか。庶民文化って言えるのは、縄文と江戸時代ぐらいではないかと。縄文はポップカルチャーとして歴史を見ることができるのが魅力です。

山田 とっかかりはなんでもいい。一歩踏み込むと、面白いことがたくさんありますから。これからは、縄文への関心がただの一過性ではなく、遺跡の保存といった方向にも目が向けられるとよいのではと考えています。

特別史跡「加曽利貝塚」と「加曽利貝塚博物館」

加曽利貝塚にある「加曽利貝 塚博物館」には、加曽利貝塚 から発掘された資料を中心とした展示がされている。体験プログラムや講座なども開催。●千葉市若葉区桜木8-33-1 TEL.043-231-0129 開館9時~17時 月曜(祝日の場合は開館し、翌日休館)、年末年 始休館 入館無料

山田康弘(やまだ・やすひろ)さん●総合研究大学院大学教授。専門は先史学。著書に『縄文人の死生観』(KADOKAWA)、『縄文時代の歴史』(講談社現代新書)など多数。

望月昭秀(もちづき・あきひで)さん●ニルソンデザイン事務所代表。著書に『縄文人に相談だ』(国書刊行会)、『縄文力で生き残れ』(創元社)。

『クロワッサン』1003号より

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