本間 お金があることが豊か、と思われていた時代もありましたが、必ずしもそうでないことに多くの人が気づいています。ホテルも豪華絢爛な装飾美を演出するというよりも、光や風が心地よく入り、植物が青々と生い茂る、居心地のいい空間こそがラグジュアリーになってきた。
吉田 コロナの影響で在宅勤務やオンラインミーティングが加速度的に広がったのは、結果的によかったと思います。地方へ移る人も増えましたね。
本間 どこでも仕事はできる、都市の中だけで暮らしていくのは苦しいと、多くの人が気づきましたよね。
吉田 技術も一気に進歩しました。そして誰もが、自分がやっていることはなんだろう、と内省したと思います。
本間 コロナの副次的な産物として平日と休日の境目も曖昧になりました。僕の会社のスタッフは五島列島でサーフィンをしながら働いたり(笑)。家とホテル、別荘もそうだし、あらゆる物事の境界が曖昧になってきました。
吉田 自然を相手にするときの、不便さの中にある豊かさを求め始めましたよね。私は今後、都市に立つビルを減築し、植物が人工を侵食し共に場を創る廃虚のような空間を作ってみたいんです。五島列島の「hotel sou」はそのイメージで作りました。
本間 「K5」も意識して植物をふんだんに取り入れています。これまでは自然に手を入れて人工的な建物を作ってきたけど、逆に自然が都市を覆っていくような、自然の営みをダイレクトに感じられる空間ですよね。僕は福島の田舎の自然で遊びながら育ったので、東京でホテル業を10年やっていたらまた自然の中に戻りたくなったんです。
30代半ばを越えて、自然の中で遊べる時間はそこまで長くないと気づいたのも大きかった。それで「SANU 2nd Home」をスタートしました。自然の中に立つキャビンを借りる、サブスクリプションサービスです。八ヶ岳や軽井沢、どこのキャビンでも自由に借りられるので、自分にとってのホームが地球上に増えていく感覚です。
吉田 新しい考え方ですね。私が携わっている「NOT A HOTEL」も、別荘のように所有もでき、ホテルのように運用もできるという面白いシステムです。その土地の魅力を最大限に生かした唯一無二の空間体験が価値になるという、新しい概念なんです。
本間 僕はこれから“所有”の概念が変わると思っています。ホームは持ちたいけれど、所有はしなくていい。
吉田 ホテルのあり方もさらに多様になっていくでしょうね。旅するように暮らしていけるとうれしいな。
本間 ホテルとは違う名前の「何か」が新たに生まれるかもしれませんね。