くらし

【山田康弘さん×望月昭秀さん 対談】縄文という時代【1】

長い歳月に育まれた日本の文化の礎は、実は、はるか縄文の世界にあるという。それを知ることで見えてくるものとは?
  • 撮影・青木和義 文・一澤ひらり

縄文人が始めた定住生活こそが、日本の文化の基礎になるんです。(山田さん)

まずは現代カルチャーと対比する。それを入り口に縄文を楽しめればと。(望月さん)

(右)山田康弘さん「国立歴史民俗博物館」教授 (左)望月昭秀さん「縄文ZINE」編集長 千葉市にある日本最大級の加曽利貝塚で対談は行われた。

昨年、東京国立博物館で開かれた『縄文ーー1万年の美の鼓動』に35万人超の来場者が訪れるなど、縄文ブームに沸く日本。縄文研究の第一人者・山田康弘さんが深い関心を寄せるフリーペーパー『縄文ZINE』の編集長・望月昭秀さんと、縄文の文化について語り合いました。

山田康弘さん(以下、山田) 実は『縄文ZINE』、最初は冗談でやっているのかと思ったんです。ところが2号3号と続いてきて、今度は10号。9号では勝坂式(かつさかしき)土器を「勝坂46」というアイドルグループに見立てたり、僕ら研究者にはない発想で若い人たちに縄文研究の入り口の部分をきちんと作ってくれていると感心しました。なぜ縄文だったんですか?

望月昭秀さん(以下、望月) もともと縄文が好きで、考古館や遺跡にひとりで行っていたんですが、周りに興味を持っている人が、ほかにたった1人しかいなくて寂しかった(笑)。とりあえず、仲間が欲しいというのが出発点ですね。『縄文ZINE』は基本的には現在のカルチャーと縄文を、全部対比で構成しようと試みていて。マンガと縄文、小説と縄文、映画と縄文とか、入り口だけ対比にして、最終的に縄文の面白さに落とし込めればいいなという構成で作っています。

山田 縄文はイメージで語られやすいですよね。縄文人は森の民といったイメージや、自然と共生していたロハスな人たちだとか。でも縄文人は原生林に住んで年がら年中、鹿とか猪を追いかけ、木の実を食べていた人たちではない。自分たちの居住空間を自分たちで作りだして、開けたところに集落を作りつつ、その周辺に有用な植物を植えて管理をしていました。

望月 手つかずの自然の中で暮らしていたというような、あっけらかんとしたユートピア的なところに、縄文の面白さがあるわけではないなというのは、僕も感じています。

山田 原生林ではなくて自分たちで作り出した二次林の中、ここを彼らはメインにするわけなんです。今から1万1500年ぐらい前に本格的な定住生活が始まりますが、それこそが後世の歴史につながる画期的なことだったと思いますね。

望月 定住生活をするようになってさまざまなイノベーションのひとつとして土器が作られたり、二次林を管理したりしてきたということですね。

山田 そうです。しかも食材の調理・加工の方法などは、道具立てが変わったにしても、いまに引き継がれているものが、実はすごく多い。

望月 たとえば、どんなものが?

山田 干物や燻製、塩漬けなどがそうですね。トチノミのアク抜きをするために小川から樋を使って水を引っ張り込んで、四角い木組みを作って水を溜めて、水晒しをしたりとか。いまはすりこぎ、すり鉢で当たるものを当時は石皿とたたき石、すり石でごりごりやっていますからね。

望月 畜産や農耕ではないとしても、自然の中にあるさまざまな食べ物の利用法や保存法は縄文の時代にすでに知恵を凝らしていたということですね。

山田 そういった意味では縄文の時代、縄文文化というのは現代の日本の文化の基礎的な部分に息づいているように僕は思います。

望月 たしかに縄文って生活が見えるんですよね。時代は違いますが、そこにとても親近感を覚えます。

2015年創刊のフリーペーパー『縄文ZINE』は各地の博物館や書店などで、現在10号を配布中。
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