からだ

将来の認知症を予防するために。日々心がけたい、12の生活習慣。

脳が正常に働かなくなる認知症は、現代の医学では治癒できない病。
それでもむやみに怖れないで、いまからできる予防メソッドで対策を!
  • イラストレーション・鈴木衣津子 文・田村幸子

認知症とは脳の生活習慣病。

もの忘れ、せん妄、徘徊……。自覚のない行動が現れる、認知症の正体とは? 

内科医で、予防医学の重要性を説く森勇磨さんは、「認知症とは脳の正常な機能が損なわれ、五感が弱っていく状態のことで、病気ではなく症状の総称」という。

現在患者の7割を占めるアルツハイマー型のメカニズムは、脳に溜まる老廃物が40代以降、排出されにくくなり、アミロイドβペプチドという有害なたんぱく質が数十年単位で脳に蓄積。脳が正常に働かなくなり、発症するといわれている。

ほかにも、脳血管疾患がきっかけになる脳血管性認知症、幻視があるレビー小体型、社会性が失われる前頭側頭型の4つに分かれる。

「しかし、総じて認知症は脳の生活習慣病。とにかく、生活習慣病の予防を意識してほしい。それが認知症予防につながります」(森さん)

2023年夏には認知症治療薬レカネマブが認可された。朗報に期待が高まるが……。

「根本的な治療薬ではなく、進行を28%遅らせるだけ。認知症にならないため確実なのは、発症前からできることを続けること。まさに、人事を尽くして天命を待つことだと思います」

主な認知症の種類と特徴は?

● アルツハイマー病
認知症の約7割を占める症状で「記憶の機能」がすっぽり抜け落ちるのが特徴。MRI画像では、記憶を司る海馬が萎縮する。

● 脳血管性認知症
認知症患者の約2割を占め、脳梗塞や脳出血など大病をきっかけに脳細胞が死滅すると、認知症発症の引き金になりやすい。

進行させる要因になること

(歯周病)
歯周病の原因菌は口中から細かな血管を伝い、体じゅうを巡る。
「口と脳は近いので、歯周病菌が解剖した認知症患者の脳から見つかることも。歯間をフロスできれいにしたり、歯科で定期的に歯垢を除去するなど、デンタルケアを怠らないで」(森さん)

(糖尿病)
体内の血糖値をコントロールするインスリンが分泌されなかったり、働きが低下して発症するのが糖尿病。糖尿病は、全身の血管に炎症を起こしやすく脆くなる。脳血管性認知症のハイリスク疾患のひとつで、食事療法、薬物療法などがある。

(難聴)
聴覚につながる脳の部位と記憶を司る海馬がすぐ近くにあり、コミュニケーションにも障害が出やすいなど、難聴は認知症のリスクも上げる。「イヤホンで大音量の音楽を聴くのは避け、聞こえにくい自覚があるなら積極的に補聴器を」(森さん)

(高血圧)
高血圧基準値は世界でも日本でも140/90mmHgと決められている。血圧が基準値を超えると、心臓や血管に負担がかかり、脳梗塞や脳出血のリスクも高い。
「脳血管性認知症のリスクが高まるので、塩分を控え、生活習慣をあらためて」(森さん)

●その他ハイリスク習慣
・ 肥満
・ 喫煙
・ 過度な飲酒
・ 社会的孤立
・ 抑うつ症状  など

Q.もの忘れとは違うの?

名前がとっさに出てこない、どこにしまったか忘れることがつづくと、認知症の前兆? と不安が募る。

「もの忘れは部分的ですが、認知症は記憶がエピソードごとごっそり消えるのが特徴です。そして、指摘されても悪びれないことが多い。また、もの忘れをしてミスをしたという自覚があれば、まだ大丈夫です」(森さん)

Q.閉経後、気をつけたいことは?

女性が閉経すると女性ホルモン量が減少し、これまでコントロールできていた血圧や血糖値、体脂肪などが一気に乱れてしまう。

「閉経期だからと健康診断の結果や体調不良を放置せず、不調があれば専門医を受診しましょう。コレステロール値も上がりやすいので、運動習慣はぜひ取り入れ続けてください」(森さん)

【運動】気持ちよく体を動かすと脳がサビつかない。

五感をバランスよく使う運動は、日日のすこやかな暮らしにも、認知症予防にも効果が期待できる。
順天堂大学の軽度認知症患者の調査では、サルコペニア(筋量低下)の患者は、認知症の進行も早いという結果も。つまり、筋肉量を減らさないことは重要。

「人間の心臓は加齢とともに硬くなり、動きも鈍くなります。ところが運動することで全身に血液を送り出す“心室”に筋肉がつき、心臓の動きを助けてくれるのです。一日数回でもいいので、簡単な筋トレをしたり、歩数を少しずつ増やすなど、自分のペースで運動を始めましょう」(森さん)

◎毎日できるだけ8000歩を歩く。

アメリカで1万5千人を対象にした調査では、1日8000歩までは歩けば歩くほど寿命が延びたという論文がある。時速5キロで歩くとおよそ90分。
「やや早歩きにして、息があがるぐらいの速度で」(森さん)。
脳を活性化させるには、いつもと違うルートを歩くのもおすすめ。

◎ 最も効率的なのは   筋肉が大きい足腰トレ。

トレーニングで筋肉がついていると、血糖などを筋肉が取り込んで代謝もよくなるため、脳血管も丈夫になる。
「体で一番大きな筋肉が集中する足腰を鍛えるスクワットなどの筋トレを、毎日少しでも行うのが効率的。初めは5回ぐらいからでいいので、楽しく続けて日課にしてください」(森さん)

 [スクワット]

スクワットは、太もも前の大腿四頭筋、太もも後ろのハムストリングス、お尻の大臀筋を鍛える。基礎代謝がアップして下半身の血流を促す。

[ランジ]

片方の足を前に出し、膝を曲げ、腰を落とす。スクワットより安定感がないため、ゆっくり行えばより体幹が鍛えられる。お尻の筋肉への刺激も。

【食事】ふだんの食生活を見直して脳の老化速度を落とす。

毎日の食事をおろそかにしては脳の老化も加速しがち。
森さんが認知症予防に推薦するのが「旬の野菜や果物をたっぷりと、肉よりも魚を中心にしたメインディッシュを選び、主食には未精製の全粒粉パンや玄米を混ぜたごはん。そこに少量の赤ワインを合わせた地中海食」だという。
地中海周辺で暮らす人々は糖尿病や高血圧などの生活習慣病が少ないことで知られていて、科学的なエビデンスもある。

「理想の食事は旅館の朝ごはんですが、塩分が気になるので、減塩の調味料を使ったり、オリーブオイルで調理するなど、工夫してみてください」(森さん)

\地中海食とは/

□ 果物や野菜をたくさん摂る
□ 乳製品や肉よりも魚を摂る
□ オリーブオイル、ナッツ、豆類を積極的に摂る
□ 果穀物はミネラルが豊富な全粒粉など未精製を中心に

◎油に注目! 体にいい油を摂り、 悪い油を避けると脳がクリアに。

脂っこいものは体に悪い、太りそうと、油を一括りに〝悪者〞と決めつけないで。
「トランス脂肪酸などの悪い油を避け、オリーブオイルや菜種油、魚油などいい油を日常的に摂ると、脳血管性認知症リスクが下がります」(森さん)

[いい油]

オリーブオイルをはじめ、多価不飽和脂肪酸のEPAやDHAなどの魚油、オメガ3脂肪酸は、体の炎症を抑えて、コレステロールを減らす。

[悪い油]

マーガリンや菓子パンに含まれることが多いトランス脂肪酸は、LDLコレステロール値が上がり、動脈硬化や脳血管性認知症リスクが高まる。

◎ノンアルコールが基本。選ぶなら赤ワインを少量。

百薬の長といわれるお酒だが、認知症予防にはノンアルコールが原則だそう。
「お酒の種類を選ぶなら、地中海食にもある赤ワインを一日グラス1杯程度嗜むぐらいにしましょう」(森さん)

◎塩分過多になりがちな和食。カリウムでバランスをとる。

「じつは和食は健康にいいというエビデンスはありません」と森さんは注意を促す。味噌汁、漬物、煮物など、塩分が重なるばかり。
「塩分の成分、ナトリウムの排泄を促すカリウムを含む食物を意識して一緒に摂りましょう」(森さん)

◎健康な骨のために、ビタミンDで吸収力UP!

骨強化に小魚などカルシウムは摂っても、忘れがちなのがビタミンD。
「カルシウムを体内に吸収するにはビタミンDが必要。日光を15分以上浴びるか、ビタミンDが豊富なきのこ類やドライイチジク、卵を摂りましょう」(森さん)

【睡眠】脳をクリーンアップして記憶を整える。

睡眠と脳は深い関係がある。
「寝ている間に脳は、その日にあったできごとの記憶を整理したり、脳に溜まった老廃物を一掃させるのです。短期記憶を司る海馬から大脳の各領域に記憶を移動して長期保存していきます」と森さん。

年齢を重ねると、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなりがち。
「遺伝子的にショートスリーパーも、ロングスリーパーもいますが、平均すると7時間前後の質のいい睡眠をとることが、脳のためにも、生活習慣病を予防するためにも大切です」(森さん)

◎寝すぎも寝なさすぎ もNG。7時間睡眠 が脳を最適化。

脳と睡眠時間は、「10万人を対象にした日本の研究では、8時間以上の睡眠は、7時間睡眠よりも寿命が短いという結果に。北欧でも10時間以上の睡眠は認知症リスクが高まるというデータがあります」と森さん。

◎昼寝をするなら、アラームをかけて1時間以内までに。

うとうとと寝落ちして、気づいたら夕暮れどき。
「1時間以内の昼寝はアルツハイマー型認知症のリスクを下げるのに、1時間以上はリスクを高めたというデータがあるので、必ずアラームをかけて」(森さん)

◎無呼吸症に注意。 家族に指摘されたら 一度検査を。

「寝ている間に呼吸が止まっている」と家族に指摘されたら要注意。日本人の300万人以上が無呼吸症候群と推測されているそう。
「無呼吸症を治療しないと10年間で認知症リスクが約26%上がります」(森さん)

【コミュニ ケーション】言葉を交わし心を通わせることが、脳によい刺激に。

孤独が健康に深く影響していることは、世界的にも広く知られているとおり。
森さんは「人とのコミュニケーションがなくなると、外部から脳への刺激も減り、認知症リスクが高まります」と注意を促す。

女性は年齢を重ねると交友関係も変化しがち。
「ひとりでいるほうが落ちつくという人もいるでしょうが、誰かと会って会話して、食事して、という関わりは、脳にもよい刺激をもたらします。時には人づきあいにおける煩わしさやストレスさえも、脳には必要なのです」(森さん)

◎人と直接会って会話を楽しむのは脳のごちそう。

スクリーン越しよりも、リアルに会っておしゃべりすることは、とても大切だそう。
「相手の表情や間合い、ニュアンスなど、オンラインでは伝わりづらい情報が脳に伝達されて、いい影響があります」(森さん)

◎推し活や、SNSなど 新しいことを始める 〝ときめき感〟が大切。

孤独を解消して脳をフル回転させるには、心ときめく新しいことにチャレンジするのが近道。
「SNSで発信したり、推し活もいいでしょう。コンテンツを消費するだけでなく、自分なりの表現で楽しんで」(森さん)

◎旅行や美術館巡り、 観劇など、おでかけ習慣を充実させて。

外出が億劫になると、日々の活動量も減り、身なりも構わなくなりがち。
「認知症は五感が損なわれてゆくので、心を揺さぶられる景色や芸術にふれるのも大切なこと。外出予定は意識的に増やして」(森さん)

森 勇磨

森 勇磨 さん (もり・ゆうま)

内科医

オンライン診断を行う「ウチカラクリニック」開設。YouTubeチャンネル「予防医学ch/医師監修」が人気。著書に『認知症は予防が9割』(小社刊)。

『クロワッサン』1102号より

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