からだ

漢方から見た腸の役割と、腸の健康を保つ食養生のポイント。

  • 文・土田由佳 イラストレーション・松元まり子

腸の健康を保つ食養生

漢方では、私たちがふだん食べている多くの食材に、体を元気にする効果があると考えます。
脾の働きを助け、腸を健康にする食養生のポイントをご紹介します。

胃腸が弱ったら 「甘味」の食材をとる

脾が弱るおもな原因は暴飲暴食。油っこいものや味の濃いもの、冷たいものや甘いものなどを食べ続けると、消化力が弱まって悪循環に陥ります。これら胃腸の負担になるものを控えることがまずは先決。

そして、脾を元気にする「甘味」の食材をとるようにしてください。下記「五味の働きと食材」の甘味の項目に、おすすめの食材を紹介しています。

五味とは、酸味、甘味、辛味、鹹味(かんみ)、苦味の5つの味のこと。

味そのものを指すのではなく、食材がもつ効能によって分類されたものです。これらをまんべんなくとることが、体本来の働きを発揮するために重要と漢方では考えます。

五味それぞれに効能があるわけですから、体が不調になった場合には、その体の部位に働きかける味の食べ物を多くとればいいというわけです。

五味の働きと食材

【 酸味 】
自律神経を整え、汗や尿、便が必要以上に出ないように抑える作用や、ストレスを解消する働きがある。梅、レモン、みかん、りんご、いちご、トマト、酢、ローズヒップなど。

【 甘味 】
胃腸の働きを助け、痛みや緊張を和らげ、疲れをとる作用がある。ホクホクしたものに多く、米、大豆、鶏肉、鮭、かぼちゃ、さつまいも、にんじん、バナナ、ぶどう、ハチミツなど。

【 辛味 】
肺の働きを活性化し、発汗を促す。血行も促進させるため、肩こりや冷えなどにも効果的。ねぎ、たまねぎ、にら、とうがん、にんにく、しょうが、しそ、こしょうなど。

【 鹹(かん)味 】
塩辛い味のこと。水分代謝を高めるため、便秘の改善やリンパ腺の腫れなどに作用する。豚肉、いか、カキ、あさり、しじみ、はまぐり、昆布、わかめ、海苔など。

【 苦味 】
体にたまった余分な水分や老廃物を取り、こもった熱を冷ます。神経を鎮静させる働きも。レタス、ゴーヤー、アスパラガス、みょうが、ぎんなん、緑茶など。

「甘味」の食材とはじっくりと甘くなるもの

「冷たいものや甘いものは控えるようにと言っておきながら、甘味のある食べ物を食べようとはおかしいのでは?」と矛盾点に気づかれた方、なかなか鋭いです。確かに文字だけで見ると矛盾していますよね。

でも、漢方でいう「甘味」とは、砂糖たっぷりの甘いお菓子や菓子パンのことではありません。これらは胃腸をさらに弱めてしまいますから控えてください。

おすすめする甘味の食べ物とは、よく噛んでいるとじわじわと甘くなってくるもの、お米などがいい例です。それと、かぼちゃやさつまいものようにホクホクしたものになります。これらを生ではなく必ず火を通してください。豆腐もおすすめですが冷奴ではなく湯豆腐で。

食欲がない場合は無理に食べなくてもかまいません。「時間だから」と、おなかがすいていなくても食べている人は、1食抜いてみましょう。

そうしておなかがすいてきたら、小さなおにぎりや蒸したさつまいも、りんごなどを食べるのがいいです。

健康を保つ食べ方のポイント

腸の健康を保つための食べ方のコツもお教えいたします。

胃腸を整え、血流をよくするために、寝起きは温かいものを飲みましょう。白湯でも好みのお茶でも、朝食の味噌汁でもOKです。

朝の体は一日のなかでもっとも冷えている時間帯なので、温かいものを飲んで、体の内側から体温を高めることが大切。また、できるだけゆっくり飲むことも習慣にしましょう。

ふだんから冷たいものをとらない、とりすぎないことも食養生のひとつです。

漢方でいう冷たいものとは、アイスクリームや氷の入ったドリンクではありません。体温より低い温度のものは体にとってすべて「冷たいもの」になります。フルーツなども冷蔵庫に入れてキンキンに冷やすのではなく、常温に戻してから食べることをおすすめします。

日本人の体質や気候環境(高温多湿)に合った理想的な食事は日本の伝統的な和食です。旬の野菜を中心にして、穀類4、野菜4、動物性食品2の割合にした食事がよく、腹八分目で食べるよう、心がけるようにしましょう。

最後に、食べ物をイメージで捉えていないか、ここでよく思い起こしてください。サラダやヨーグルト、スムージーなどを朝から食べていませんか? 体にいい、ヘルシーというイメージがありますが、漢方では逆です。これらの食べ物は、胃腸を冷やして「湿邪」を生み出すものと考えられています。カロリーやイメージだけでなく、食材が本来もっている効能で体を潤し、気を補える習慣を取り入れてみてください。

胃腸が弱る控えたい食べ物

● 甘いもの:チョコレートやケーキ、和菓子など
● 油ものや肉類:揚げ物、ポテトチップス、各種肉類など
● 香辛料の多いもの:唐辛子、カレーなど
● ファストフード
● 生もの、冷たいもの、冷凍もの:刺身、サラダ、アイスクリームなど
● コーヒー
● アルコール類:ビール、日本酒、焼酎、ワインなど

健康を保つ理想的な食事

穀類4、野菜4、動物性食品2の食事を腹八分目に!
穀類 … 米や小麦、大豆、ひえ、あわ、きびなど
野菜 … キャベツ、小松菜、ほうれん草、チンゲンサイ、トマト、きゅうりなど、その時期の旬のもの
動物性食品 … 肉や魚介類、卵、牛乳、乳製品など

【腹八分目の目安】

胃がもたれない

体が重くならない

食後に眠くならない

櫻井大典

櫻井大典 さん (さくらい・だいすけ)

漢方コンサルタント

アメリカの大学で心理学を学び、帰国。国際中医専門員。年間5000件以上の相談をこなす漢方専門家で、2020年3月からは「成城漢方たまり」(東京)で健康相談を行う。定期的に漢方セミナーを開催。『食べる漢方』監修、主な著書に『櫻井大典先生のゆるゆる漢方生活』など。

※プロフィールは取材時のものです。

『Dr.クロワッサン 免疫力アップの決め手、腸内環境を強くする』(2020年7月30日発行)より。

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