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『ゴースト』中島京子さん|本を読んで、会いたくなって。

過去は、今を生きている人の真横にある。

なかじま・きょうこ●1964年、東京都生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。出版社勤務を経て、’96年に渡米、帰国後、フリーライターとなる。2003年に『FUTON』で小説家としてデビュー。2010年、『小さいおうち』で直木賞を受賞した。

撮影・青木和義

暗闇の中に浮かび上がる、ぼんやりとした白い何か。ゴーストといえばそんなものを連想しがちだが、中島京子さんの最新連作集では、もっと広い意味でのゴーストが、7つの短編で描かれている。

「怖い小説を書きたかったわけではありません。旅先の古いお寺などで、何か感じることがありますよね。初めての場所のはずなのに、忘れていたものがふと蘇ってくるような瞬間。その現象をなんて呼ぶべきかわからず、 “ゴースト” と名付けました。私自身が怨念に敏感だったり、特別関心があるわけではなく、自分が死んでも単になくなるだけじゃないかと、漠然と思っているタイプ。ただ、過去というものが、実は今を生きている人の真横に存在している、ということを書きたかったんです」

確かに、怖いというよりも故人の人生や思いに寄り添った、郷愁溢れる話が綴られている。また、これらは第二次世界大戦前後を舞台にしているものがほとんどだ。

「書き始めたのは2年前、(第三次安倍内閣で)安保法制や憲法などが話題になり、世間が大きく揺れていた頃でした。変化のすべてが悪ではないと思うけれど、過去を知らないままに変わることを、見過ごしてはいけないような気がしたんです。そこで戦争孤児のエッセイや戦中戦後の文化についての本などを読み漁ると、知らなかった事実があまりに多く、それらをテーマにすることにしました」

第2話では近代女性史的側面から見たミシンの歴史が描かれ、第3話では戦争孤児の隠語などを交えながらストーリーが進められる。巻末に参考文献を一部掲載しているので、興味を広げて読んでもらいたいと中島さんは語った。

詳しく説明しすぎず、読者に判断をゆだねる表現が織り交ぜられているのも、中島さんの作品の特徴だ。登場人物の気持ちやあらすじなど、考えうる捉え方が複数ある場面もしばしば見られる。

「読書は読者のものだと思っているので、どう受け取るかはお任せします、という感じ。私の中では一応正解をベースに持って書いてはいますが、たまに思ってもみなかった捉え方をされていて、驚くこともあります。第5話『キャンプ』は7話中唯一、登場人物が全員幽霊。設定も現実にはない、どこだかわからない想像上のものなのですが、先日のイベントで、みんな何語で話しているのでしょうという、読者からの質問がありました。そこまでリアルに想像してもらえるなんて、作者冥利に尽きます。イベントなどで読者の方の意見をきくのも楽しいです」

朝日新聞出版 1,400円

『クロワッサン』962号より

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