「受け継いだ着物を着ると元気になり、守られていると感じます。」フリーアナウンサー、俳優・宇垣美里さんの着物の時間。

「この着物は母が結婚した際に誂えたもので、ご近所に挨拶まわりをするときや、私のお宮詣りのときにも着ていたそうです」
と宇垣美里さん。浅葱（あさぎ）色の地色に季節の花が描かれた鈴を配した訪問着は華やかさと、しっとりとした雰囲気を併せ持つ。

「和服に造詣が深い父方の祖母が、母によく似合うものをと選んでくれたと聞いています。母もこの色と柄を気に入っていて、今回私がこの着物を着ることをとても喜んでおりました。合わせた帯も母のものです」

クリーム地に花七宝の文様が光を反射し、キラキラと輝く。

「真珠箔といって、真珠の粉を箔に入れ、それを経糸（たていと）として織り上げる。手の込んだ技法で作られており、柔らかな輝きが美しく、なんともいえない優しさに包まれるような気がします」

着物好きの祖母や母の影響もあり、幼い頃から着物が身近にあった。

「七五三のとき、背中いっぱいに飾りのついた帯がうれしかったことを覚えています。成人式の振袖は叔母から譲り受けました。鮮やかな青に流水柄。そこに漂う鴛鴦（おしどり）を配したシンプルなデザインの京友禅を祖父が一目で気に入り、それこそ清水の舞台さながらの心境で購入を決めたとか。著名な京友禅の職人さんの作品と聞いています」

職人の卓越した技と思いが込められた素晴らしい芸術作品に袖を通す高揚感で胸が熱くなった、と宇垣さん。

「母や祖母には着物を選ぶ目があり、帯や小物類の取り合わせのセンスもさりげないのに魅力的で……。特に祖母は背が高く、凛とした着物姿を子どもながらに素敵だなぁと憧れていました」

大学が京都だったため、4年間の京都暮らしをした宇垣さん。着物を着る機会も多かったのでは?

「アルバイトで川床のお運びをしていました。着物がある程度着られることが採用条件でしたが、以前から母に浴衣の着付けを習っていたので無事に。でも、いざ現場で着てみるとわからない部分もあり、先輩方に教えてもらい、きれいに着られるようになりました。そういえば最初『たすき掛け』ができなかったんです。紐をどう回せば袖がたくし上げられるのかがわからなくて……」

毎日、袖に紐を回す練習を続け、そのかいあり、さっとできるように。

「夏に友人たちと浴衣で祇園祭や大文字の送り火などに出かけるときは、4〜5人の浴衣の着付けを一手に引き受けたことも。これも楽しい思い出です」

実家には母や祖母、叔母の着物がたくさんあり、まだ自分で着物を購入したことはない。

「サイズ直しの必要がないものが多いので、それらの着物を大切にしたいです。着物と帯を選び、小物とのコーディネイトをどのようにしようかと悩むのも楽しいひとときです。帯や小物類のあしらい方ひとつで全体の雰囲気はガラリと変わります。そこがおもしろいし難しい。いろいろと学び、着物の醍醐味を味わえるようになりたいと思います」

さらに、着物の魅力について聞くと、

「背筋がすっと伸び、気持ちが変化するところ。祖母たちの着物を着ると元気がもらえ、パワーが流れ込んできて活力になる。プラス守られているような気持ちにも。風化しないところもすごいと思います。今回の着物も私が生まれたときにはもう存在していて、それを成長した私が着ている。着物は代々受け継ぐことができるといいますが、実感ですね。今後は受け継いだ着物に負けない自分でいたい。そして、年齢に見合った装いで楽しみたいです」