「着物と帯でストーリーを作るのが好きです。今日は“海面に映る月”がテーマ」
絽の生地に刺繡を施す『絽刺し』の手法を用いて「波」と「浮き」を銀糸などで刺繡した訪問着。そこに金糸、銀糸で「月の満ち欠け」を織り出した夏袋帯を合わせたコーディネイトは、月の光が波間に浮かぶ浮きを照らし、さざ波の音が聞こえてくるようだ。
「絽の帯揚げもブルーで海のイメージに。帯締めの黒と白で全体を引き締めました。着物は墨黒で裾部分を斜めに素鼠(すねずみ)にした染め分けです。夏場は濃い色の着物を着ることが多いですね。白い長襦袢が透けて見えて涼やかでしょ。涼感は夏着物の重要な要素ですから」
40代にさしかかるころ、着物の扉をたたいた裏地桂子さん。きっかけになったのは、
「華やかな席にお誘いを受けたときに“着ていく服がない”と思ったんです。それまで着ていた流行の服がどうもしっくりこない。体形などが変化していたのと、好きな服を着て許された30代とは違うんだ、という自覚で、ますます何を着たらいいか悩んでしまって。その時に着物が頭に浮かびました」
幸い結婚した際に両親が誂えてくれた着物がたくさんあり、その中から選んで着ると、
「みなさんがほめてくださる。大人になってから、人にほめられることってそうそうはないですよね。私自身もうれしかったですが、なにより着物から会話がはずみ、人と人が繋がっていくんです」