もう4、5年前になるだろうか。ファッション誌をぱらぱらとめくっていて、思わずクレジットに手を止めたことがあった。浴衣を特集したそのページのスタイリングを手掛けていたのは、大沼こずえさん。
着物と洋服、スタイリストが棲み分けされている中で、洋服の第一人者が和装も手掛けていることが目を引いた。そしてその浴衣スタイルには、どこか新しい風が感じられた。
「意外だと言われることもあるのですが、私は着物を身近に感じて育ちました」と、自身のバックグラウンドを話してくれた。
「母がお茶とお花に打ち込んでいて、日常的に着物を着ていたんです。ただ着るだけではなく和裁と組紐も学んで、自分の手で着物や帯締めを作り、楽しんでいました。私にもごく幼い頃から着物を着せてくれて」
親から勧められると反発する子もいるが、大沼さんは和の美意識に心惹かれていった。
「高校に上がると本格的にお茶とお花の稽古に通い始めて。父の友人が着物メーカーの人で、自宅にいろいろと持ってきてくれていたこともあり、母は私のために、色無地や訪問着など、一通りの着物を揃えてくれました」
やがて大沼さんはファッションの道へ進むが、親しんできた和の美意識を忘れてしまうことはなかった。
「10年ほど前だったでしょうか、女性誌が浴衣の特集を組むようになって、私もやりたい、と強く思いました。編集部に提案して、特集を担当できることになって」
それを皮切りに少しずつ着物の仕事が増え、工房や問屋など、作り手とのつながりも築かれていった。今では着物関連の仕事も多く、俳優のドラマ衣裳を担当する時は、役のイメージに合わせて着物をセレクト。一からデザインすることもある。
そして、この夏は、和装ブランド「EMON」の浴衣のディレクションも手掛けた。伝統の伊勢型紙から5型を選び、ヴィヴィッドなイエローからやさしいピンクまで、理想の色を出すために染めの職人と何度もやり取りを繰り返した。今日の浴衣もその一枚。襦袢を着て衿を入れ、帯は名古屋帯を。浴衣を着物として楽しむスタイルだ。