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どんな食べ物も受け止める、森の生命力をたたえた木の器。

かつてその枝を風にそよがせていたときの記憶を宿しているかのような木の器。命をつなぐ日々の糧をおおらかに受け入れてくれる。
  • 撮影・尾嶝 太 文・一澤ひらり
ウッドターニングという技法で、木工旋盤を回転させながら内側をくりぬいていく。

うなりを上げるモーター音が工房にこだまする。木工旋盤に取り付けられて高速回転する材木から、ゴーグルをかけた須田二郎さんが独特のノミでくりぬくように器を削り出していく。ウッドターニングと呼ばれるこの木工技法から須田さんが作り出すのは、木の命に寄り添うような器やカトラリー。
「僕が使っているのは、主に荒れ果てた雑木林や宅地造成のために切らざるを得なかった木。それを乾燥させず、生木のまま加工しています」
と、静かな口調で語る須田さん。

“一銭にもならない”と打ち捨てられた木を車に積んで持ち帰り、水分を含んだままの丸太をチェーンソーで切るところから須田さんの器作りは始まる。
「この仕事をする前は自然農法で作物を作っていましたが、森林組合の手伝いで木こりをしていたんです。そこで林業の衰退を目の当たりにしました。これまで雑木林の木は炭焼きでうまく循環していたけれど、炭焼きが廃れて里山を保護できなくなり、雑木林は荒れ放題になった。邪魔物扱いされる木をなんとかしたくて、木を生かすために器を作るようになったんです」

独学で木工品を作り始めたのは40代を迎えてから。早くはないスタートだったが、木の器を通じて日本の森を甦らせたいという須田さんの思いは熱い。

無垢材の微妙な歪みが表情を生む。 使い込んで育てる、自分だけの器。

木目の風合いと、乾燥によって生じる歪みが温もりのある表情に。同じ器は二つとない。

須田さんの素朴で美しい器の魅力は、生木を加工するからこそ生じる巧まざる自然の“揺らぎ”にある。
「器にしてから2週間ほど乾かすんですが、水分が抜けてくると歪んでくるんですよね。自然がもたらすゆるやかな変化が味わいになっていくんです」

器の仕上げはオリーブオイルなど植物油を塗るだけのオイルフィニッシュ。無垢の状態で木の風合いを生かす。
「木の器は一枚一枚木肌や木目の表情が違っていて、同じものは一つもありません。さらに使い込むほど色つやが増していきますから、だんだんと自分だけの器に育っていくんです」

ボウルの使い始めはサラダから。ドレッシングの油が木になじんで耐水性が強くなる。

とはいえ、水に濡らしてもよいのか、油ものに使っても平気なのかと、木の扱い方に慎重になってしまうのだが。
「水でも油でも普段の食器と同じように使ってください。最初のうちはサラダで使うといいですよ。ドレッシングの酢と油が浸み込んで硬化し、耐水性が増していくんです。普段の手入れは洗剤を使わず、お湯で洗ってよく乾かして、ときどき食用の植物油をすり込んでもらえば長く使えます」

器に命がある。森の呼吸をし続けているのが、須田さんの木の器なのだ。

伐り出した丸太から美しいボウルができるまで。

1. 楢の木の丸太をチェーンソーで縦半分に切る。

2. これから作る器の口径に合わせ、直径28.5cmの円盤を当て、ラインをなぞる。

3. チェーンソーで角を切り落として、ざっくりと形を作る。

4. 木工旋盤に取り付けて回転させ、ノミを当てて削っていく。

5. 内側も外側も旋回させながら、削り落として成形する。

6. 2週間ほど乾かしてから、植物油をたっぷり塗り、乾いた布で拭き取る。

7. 器を作るときに出た端材でサーバーも作って、見事完成!

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