また、西井さんが精進料理の世界に進む背景にも、香栄禅尼の存在があった。若くして渡仏し、フランス料理を習得した西井さんは、日仏を行ったり来たりしながらフランス料理を教えていた。けれど、フランスで日本のことを聞かれても確信をもって答えられない自身に疑問を覚えたのだという。そんな時、三光院で食べた料理に目を見張った。
「これだ、ここしかない」
淡い味の奥底に自然の味が力強く立ち上がる。奥ゆかしく品格のある味わい。感銘を受けた西井さんは、進む道を見つけた思いで、料理教室に通い、直に香栄禅尼の内弟子となった。「あなたには一対一で教えたい」との言葉をうけて。以来、三光院に住み込み、修業を続け、竹之御所流精進料理の三代目の後継者となった。
「初代の祖栄禅尼が京都の曇華院で食べて育った精進料理を香栄禅尼に伝え、香栄禅尼はそれを広く世に知らしめた。私もこの、自然をいただく、生きる力をもらえる料理を大切に次代に伝えて行ければと思っています」
今回は西井さんに、自宅で作れる秋の献立を4品教わった。出汁も特別な調味料も必要なく手早く仕上がるのに、ほのぼのと滋味深い。
「この時季にしか食べられないというのは、それを待ちわびる心もあいまっていちばん贅沢な、おいしさのひとつですよね」
柿、きのこ、栗に銀杏。秋の実りを目と舌と心で味わってほしい。