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心と身体を整える、精進料理の作り方。

  • 撮影・合田昌弘

身体に必要なものは自然が教えてくれます。

本堂の裏にある十月堂の広々とした調理場で。

「精進料理は、季節のものを感謝の気持ちでいただくのが基本。自然は不思議なほどよくできています。たとえば梅。当院は6月に煮梅を出しますが、この季節は梅雨で食中毒が心配です。けれど梅には雑菌の増殖を防ぐ力がある。自然がその時に与えてくれる、その時になるものがやっぱり身体にいいし、必要なもの。だから、素材の力を生かしきる、ということが大切です」

調味料はごくシンプルに、塩、砂糖、醤油、酒、山椒、からし程度で、出汁を必要としない料理も多い。

「食べ終わった時に、残るのは清々しい気持ちだけ。それが竹之御所流精進料理です」、西井さんはそう語る。

境内の草むらにぽつぽつと置かれた石仏。香栄禅尼が手づから彫ったという。

月の献立〈月の餐〉をいただいた。お薄から始まって、一品ごとに漆盆で供される。お煮しめに、里芋のあんかけ、黒豆がちりばめられたご飯。どれも品よく、素材の味がひきたつ淡い味。なかでも茄子の田楽の佇まいが美しい。

「茄子の瑠璃色はほかの野菜にはないもの。だから茄子を扱うならこの色をどう生かすかということが大切です。私が料理することでこの色を汚すことがあったら申し訳ない」

ちなみにこの料理の名を「木枯らし」という。京都・寂光院の琵琶「木枯らし」に形が似ていることから、現住職の香栄禅尼が名づけた。

「香栄禅尼はすばらしい感性の方で、ほかにも、豆腐をムース状にした“インドのうさぎ”など従来の在り方にとらわれない料理を作られました」

竹之御所流精進料理を広く伝えるためにその献立を積極的に書籍化し、英訳本を出版したのも香栄禅尼で、結果、精進料理は欧米にも存在を知られるようになったという。

臨済宗 泰元山 三光院

また、西井さんが精進料理の世界に進む背景にも、香栄禅尼の存在があった。若くして渡仏し、フランス料理を習得した西井さんは、日仏を行ったり来たりしながらフランス料理を教えていた。けれど、フランスで日本のことを聞かれても確信をもって答えられない自身に疑問を覚えたのだという。そんな時、三光院で食べた料理に目を見張った。

「これだ、ここしかない」

淡い味の奥底に自然の味が力強く立ち上がる。奥ゆかしく品格のある味わい。感銘を受けた西井さんは、進む道を見つけた思いで、料理教室に通い、直に香栄禅尼の内弟子となった。「あなたには一対一で教えたい」との言葉をうけて。以来、三光院に住み込み、修業を続け、竹之御所流精進料理の三代目の後継者となった。

「初代の祖栄禅尼が京都の曇華院で食べて育った精進料理を香栄禅尼に伝え、香栄禅尼はそれを広く世に知らしめた。私もこの、自然をいただく、生きる力をもらえる料理を大切に次代に伝えて行ければと思っています」

今回は西井さんに、自宅で作れる秋の献立を4品教わった。出汁も特別な調味料も必要なく手早く仕上がるのに、ほのぼのと滋味深い。

「この時季にしか食べられないというのは、それを待ちわびる心もあいまっていちばん贅沢な、おいしさのひとつですよね」

柿、きのこ、栗に銀杏。秋の実りを目と舌と心で味わってほしい。

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