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【後編】作家・小川糸さん「湯気も幸せ。自分で焼くパンは特別な日のごちそう」

「冬の日はパンをこねてスープを作ります。それで一日、身も心もほかほか」と話す、作家の小川糸さんを訪ねました。
  • 撮影・清水朝子 文・一澤ひらり

オーガニックの雑穀を土鍋で炊く。寒い日のとっておきなんです。

「やっぱりパンはプロが作るのと家で作るものは別物だと思うから、天然酵母のパンは『ラトリエ ドゥ プレジール』で買っています。自家培養した発酵種を何十種類も使っていて、旨味に深みがあって、どれを食べても本当においしい。すぐ売り切れてしまうので、前日に予約しています。だから今日はパンが食べたいというときは、自分で焼くしかないんです(笑)」

ラトリエ ドゥ プレジールより。右から、プレジー ル大980円 ※水・土・日曜限定、取材日の本日の おすすめは古代小麦入り3.5円/ℊ、パン オ レ ザン エ ロマラン290円、パン オ フリュイ ル ージュ2014 3.2円/ℊ。すべて税込み。

パンを焼いている間、土鍋でコトコト煮込んでいるのは雑穀スープ。小川さんが愛用するのは「スファッラータ」というイタリアで無農薬栽培された古代小麦、大麦、レンズ豆やひよこ豆を砕いてミックスしたもの。

「たまたま買ってみたら洗わずにそのまま煮ればよくて、手間要らず。この雑穀を昆布とかつおでとった和風の出汁で1時間ぐらい弱火で煮るんです。

途中で玉ねぎとベーコン、今日は蓮の実を入れて、とろみが出たらほんの少しのお醤油と、塩こしょうで味をつければ出来上がりです」

ラトリエ ドゥ プレジール●東京都世田谷区砧8・13・8 ジべ成城1F ☎︎03・3416・3341 12時~19時(パンがなくなり次第閉店) 月・木曜休 最寄り駅は小田急線祖師ヶ谷大蔵駅、または成城学園前駅。

コンロの土鍋には雑穀スープ、オーブンにはパンがこ んがりと焼かれて。
土鍋でじ っくり煮込んだ雑穀スープ。冷めにくく味もまろやか。
スープをいただく直前にエクスト ラヴァージンオリーブオイルを回しかける。より風味が増す。
古代小麦ファッロなど、イタリアの麦や豆を砕 いた雑穀をブレンドした「スファッラータ」。

和食にも合うこのスープは、いまや小川家の定番。土鍋で煮込むと冷めにくいのが、寒い冬にはありがたい。

「食べるときにオリーブオイルをサッと回しかけると、コクが出て旨味が立つんですよね。いろんな雑穀が入っているので栄養バランスがよくて、食感も楽しめます」

そうこうするうちにパンの焼ける香ばしい匂いが部屋中に満ちてきた。

「焼きたてのパンを入れる把手のついた木の器は、北欧でパンをこねるときに使います。ラトビアでも使われていて、この中に残ったかすが次の酵母になって、その家に代々受け継がれていくんです。命がつながっていくのが素敵だなって。私もこれでパンをこねて作れるようになりたいですね」

清々しい空間に素朴なパンと滋養に富んだスープと。そんな質素で温かみのある食卓には静謐な時間が流れる。

『クロワッサン』943号より

●小川糸さん 作家/小説『食堂かたつむり』でイタリアのバンカレッラ賞、フランスのウジェニー・ブラジエ小説賞を受賞。著書に『ツバキ文具店』(幻冬舎)など多数。

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※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

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