くらし

若き高峰三枝子の美しさに平伏する、 清水宏監督の傑作温泉映画。│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『按摩と女』。1938年公開。松竹作品。DVDあり(販売元・松竹)

2008年(平成20年)に草彅剛主演で公開された『山のあなた〜徳市の恋〜』の、オリジナルがこの映画『按摩と女』。戦前、小津安二郎と並び第一線で活躍していた清水宏は、天才と謳われながらも、忘れられた監督となっていたそう。近年、再評価が進み、代表作がDVD化されています。

目の見えない徳市(徳大寺伸)は、名物按摩として各地の温泉場を渡り歩いている。相棒の福市(日守新一)と共に山間の温泉場に来たところ、「東京の匂いがする」女(高峰三枝子)と知り合い、すっかりぞっこんに。しかし彼女は、なんだかワケありの様子。ちょうど温泉場で盗難が相次いでいることから、徳市は彼女を犯人と勘違いしてしまい……という他愛のない物語が、わずか66分という尺の中に完璧な密度でおさめられている、奇跡の傑作です。

目が見えないかわりにいろんなものが見える、繊細な徳市。彼のモボ風の出で立ちが洒落ているせいか、それとも演出の妙か、鄙びた温泉が舞台なのに、モダンで小粋!

公開された1938年(昭和13年)というと太平洋戦争のまさに前夜。戦前ののどかな温泉場は醸す旅情が格別で、現代の温泉宿とは違った開放的な逗留の様子、人々の交流ぶりが、コミカルに描かれます(ロケ地は那須塩原の畑下温泉ではとのネット情報あり)。

ヒロインは昭和の大スター高峰三枝子。筑前琵琶の宗家という、なんだかよくわからないけどすごそうな生まれゆえか、その美貌は高貴な気品に満ち、これぞ高嶺の花たる風格。ミステリアスな顔立ちもさることながら、着物を着た立ち姿が本当に美しい。当時20歳とは思えない落ち着きと色っぽさを、カメラはとてもデリケートな構図で切り取り、伊東深水の美人画と見紛うショットの数々には息を呑みます。

計算され尽くしていながら、とてもさり気ない軽妙な映画。しかし観終わったあと、じーんと深いところまで沁みてくるのです。

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。短編小説&エッセイ集『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)が発売中。

『クロワッサン』997号より

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