くらし

“北原三枝”として輝いた わずか8年間の女優人生。│『狂った果実』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『危いことなら銭になる』。1962年公開の日活作品。DVDあり(販売元・Happinet)

没後31年のいまも、その伝説が語り継がれる大スター石原裕次郎。芸能ニュースで石原プロの面々に囲まれながら、「裕さん」の名を愛しそうに口にする、まき子夫人の姿を時折り見かけます。80代になっても背筋がシャンとして、抜群のスタイルは健在! 歳を重ねてもその面差しはよく見ると、たしかにあの、北原三枝なのです。

1952年(昭和27年)に映画デビューした北原三枝。『青春怪談』で演じたドライな役柄もあって、当時の流行語で「M型(男性的な)女性」などと呼ばれたそうです。独特のクールな美貌と日本人離れしたプロポーションは、たしかにそれまでの女優像とは一線を画しています。新しい時代の風を感じさせるルックスが見事にハマったのが、石原裕次郎との初共演作『狂った果実』でした。

石原慎太郎が1956年(昭和31年)に発表した原作を映画化するにあたって、抜擢された実弟の裕次郎。劇中では放埒なキャラクターの兄に扮し、優等生タイプの弟(津川雅彦)が恋する人妻(北原三枝)を強引に奪っていきます。夏の逗子海岸を舞台に、若者の倦怠と一触即発なエネルギーを全編にみなぎらせ、いま観ても本当にカッコいい! 裕次郎と北原三枝が同じ画面に映った瞬間、明らかにラブなケミストリーが起こっていて、観ている方もドキドキしてしまいます。

これ以降23作でコンビを組み、1960年(昭和35年)には結婚して引退。以降は石原まき子として夫を支えた北原三枝。『狂った果実』はある意味、女優人生の終わりのはじまりとも言える運命の作品です。リアル太陽族だった裕次郎が、ストリートにいる若者の雰囲気をスクリーンに持ち込んだこと、これがデビュー作となった中平康監督の他に類を見ないセンスが全編にほとばしった演出もさることながら、ヒロインを演じた北原三枝の清新な個性があってこそ、この映画はまったく新しい、永遠の若さともいえる輝きを獲得しているのです。

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。映画化した『ここは退屈迎えに来て』が現在公開中。新刊『選んだ孤独はよい孤独』。

『クロワッサン』984号より

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