川端康成の原作小説を名匠中村登が忠実に映画化した、これぞ文芸大作と唸る上質な作品。文芸モノはとかく冗長になりがちですが、隅々まで目の行き届いたきめ細やかな演出でまったく飽きさせません。昭和30年代の京都の町並み、平安神宮や清水寺といった名所に加え、時代祭などの風物詩が丁寧なロケ撮影で捉えられていて、それだけでも観る価値は大いにアリ。
しかしなによりの見せ場は、町育ちの千重子と北山杉の村で育った苗子、はなればなれになった双子が同じ画面に写るシーンです。デジタル合成などない時代、多重露光の撮影で一人二役を演じるのは至難の業ですが、顔つきひとつで実にさらりと、完璧に演じ分ける岩下志麻の才能には感嘆するばかり。しかもこのとき、弱冠22歳! このあとも彼女の演技力は進化しつづけますが、日本映画が真に豊潤だった時代にしか撮れない『古都』の完成度の高さに、「やっぱりこの時代の映画はいいなぁ」と、胸をつかまれるのです。