あの日、少年建造が、道中に出会った23歳の女ハナ(田中裕子)。朱色の半襟をローブデコルテ並みに抜いてぐずぐずに着崩し、首には白粉、口紅は真っ赤という、凄まじくエロい娼婦風の出で立ちは、童貞(建造)でなくても気がおかしくなってしまいそう。当時28歳の田中裕子は、大正時代のきものが天下一似合うし、演技力は別次元に達しています。建造はハナとデート気分で夜道を歩いていたのに、大人の男が現れ、ハナはひと仕事しに行き……という、あとは言わずもがなな展開が、湿り気たっぷりに撮られています。
冤罪で捕まったハナが、建造をまったく責めずに微笑んだり、ハナに酷い尋問をした刑事が「あの女の死に顔は菩薩のように美しかった」と手のひらを返して讃えだすなど、いろいろと虫のいい話ではあります。童貞ロマンティシズムの極致ではあるけれど、田中裕子の色気によってこっちも正常な判断ができなくなっているせいか、なんかすごくいい映画を観たような深い余韻が残るのでした。