前回に続き、当時としてはフレンチのニューウェーブだったビストロのシェフが、自慢の料理のコツを紹介する特集。今回選んだのは、世田谷区奥沢にあった隠れ家レストラン「竹亭」のオーナーシェフ・豊嶋森太郎さんのひと言です。
<料理の材料であるモノに非常に(頑固といってもいいくらい)こだわる神経と、作ってしまえば、サアどう食べても勝手だよといった感じの、客にとってはありがたい放任が同居している>という、ビストロらしい料理哲学の持ち主であったことがうかがえる豊嶋さん。
紹介されているのは、完熟トマトを使ったナスの詰めもの「ナスのシャルキチェル」、潔く大ぶりの肉厚しいたけだけをグラス・ド・ビアン(仔牛のスジや骨を煮詰めた濃厚なだし汁)を使ったソースとあわせた「シイタケのボルドレーズ」など。素材は身近でシンプルながら、いつもとは違った味わいが楽しめそうな料理が目を引きます。
じつは「ナスのシャルキチェル」と「シイタケのボルドレーズ」に使っているソースは同じ材料でつくっているとのこと。それなのに使う量、煮詰める時間、少量入れるワインの銘柄によって、味も色もまったく違ったものになるのが料理の醍醐味だと語ります。
食いしん坊のツボを刺激するシェフのコメントに、そのマジックがどんな味だったのか、想像せずにはいられません。過去のレストラン特集のまったくもって罪つくりなところです。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。