くらし

【紫原明子のお悩み相談】ルーティンで家事をこなせるようになりたいです。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は理想と現実のギャップに自己嫌悪を抱く、新米主婦のお悩みです。

<お悩み>

50才の結婚3年目の主婦です。
専業主婦で子供もいませんので、家の中を小綺麗に整え、料理の腕をあげ、季節の行事を楽しむ、という目標があるのですが、生来の怠け者のせいかなかなか進みません。
掃除よりは料理の方が好きなので、めんどくさい時もありますが、なんとか料理は最低限こなしています。
悩みというのは、どうすれば毎日掃除を続けられるか、働き者になれるか、ということです。ルーティンで家事をこなせるようになるのが夢です。色々本を読んだりして習慣を身につけようとチャレンジしましたが続きませんでした。お恥ずかしい悩みですが、50にもなってだらしない性格をなんとかしたいと真剣に悩んでいます。
(相談者:くらこ/女性、再婚同士で子供はいません。専業主婦ですが、実家が県外なので友達もいなく、簡単なアルバイトを探し中です。 )

紫原明子さんの回答

くらこさん、こんにちは。

このお返事をさあ書こう、と思い立った直後に、なんだかノートパソコンのキーボードが使いづらい気がして、そうだ、以前買った外付けキーボードを使ってみようと家の中を探したんですが、押入れの中、クローゼットの中、カバンの中も机の中も1時間以上探すも見つからず、見つからないまま諦めてようやく今です。

毎日掃除を続けて清潔な家に住みたい、働き者になりたい、ルーティンで家事をこなしたい、必要なものが3秒で出てくる家に住みたい……私も、実家を出て以来くらこさんと同じことを思い続けていますが気がつけば早18年が経ってしまいました。

主婦になったばかりの頃は、“今はまだこうして炊飯器の中のご飯を茶色くカピカピになるまで放っておいてしまうけれども、もう少し経てば当たり前のように実の母のような働き者になれているに違いない”と信じて疑いもしませんでした。当たり前にそうなるものだ、と。それがまさか、こうも長いことその日が訪れないとは当時夢にも思っていませんでしたね……。

だけど18年間何ひとつ進歩しなかったかというとそういうこともなく、一つだけ、目覚ましい進歩を遂げたことがあります。それは、部屋が掃除されていないことや、食事を手作りできていないことに、罪悪感を抱かなくなったという進歩です。かつては、やらなきゃいけない家事をやれていないということに対して、自分はダメなやつだなあという自己嫌悪がすごく大きくありました。だからこそ、トイレや水回りの掃除など手を付ければ簡単なことも、ハードルの高い、億劫なことに感じたりして逆にもっとやりたくなくなるという悪循環。でも最近は“今は忙しいけど時間ができたらやろう”とおおらかな気持ちで過ごすことができるようになりました。実際、時間ができたら気晴らしもかねてやります。幸いにも、というかなんというか、締切に追われて原稿を書く仕事があまりにもつらいので、相対的に家事が楽しいことに格上げされてしまいました。(※ただし洗濯物畳みだけは例外です。あれはいつまでも大嫌い)

ただ、忙しいときの家事を全部あとまわしにするとさすがに生活ができなくなるので、テーブルの上は気がついたときにウェットティッシュで拭く、溜まったゴミはとりあえず出す、掃除機はスティック型のコードレスタイプをすぐに使えるようにしておく、お風呂場の排水口は自分がシャワーを浴びるときに簡単に掃除する(じゃないとうちの場合構造上すぐに詰まるのです)、洗濯・乾燥は縮むものとシワになりやすいもの以外は全部乾燥機まかせ、縮むものとシワになりやすいものは洗濯機ラックのハンガーに吊るして干す、忙しいときの料理はカット済み野菜の最低限料理(包丁とまな板を使わず1ステップで出来る料理)といった感じで、ミニマムの動きでミニマムの生活を営めるようにはなっています。

私自身、10年以上専業主婦だったのですが、たとえやらなくてもすぐに死ぬわけではない家事を毎日コツコツルーティンでこなすというのはこれ、結構大変なことですよ。会社に勤めている人は、パソコンでツイッターばかり見ていたら怒られるようなやんわりとした監視下にあったり、就労時間を記録されたり、がんばった見返りにお金をもらったりして、なかば強制的に頑張れる仕組みが用意されています。一方で、家事はそうではないですからね。見張りがいなくても、見返りがなくてもやらなきゃいけない。かなり神さまに試されています。実際、こうやって毎日ルーティンで淡々と掃除ができる人って寺に住んで修行しているお坊さんくらいじゃないでしょうかね。いや、お坊さんでさえ志によっては手を抜くかもしれない。

だから、くらこさんが特にだらしないのでなく、人間ってきっとそういうものなんですよ。安心してください。とはいえ一部にはやはりルーティンで家事が出来てる人もいるにはいる。じゃあそういう人たちがどうしているかっていうと、もちろん強靭な精神力でそれを実現している人もごく一握りいるとは思うのですが、多くの人はたぶん、家事以外に、どうしても動かせないスケジュールを毎日の中のどこかに組み込んで、それに合わせて家事を自然とルーティンの一つに組み込んでいるような気がします。

私が家事を今のような形でそこそこにシステム化できたのもやはり仕事を始めて、日々締切に追われるようになってからですし、仕事以外ではたとえばスポーツジムというのもひとつかもしれません。何しろスポーツジムには毎日同じ時間に必ずサウナにいる人、必ず走ってる人など、その時間にそこに来ることが日課になってる人たちがいます。そういう人達に話を聞いてみると、だいたいみんな、毎日決まった時間にジムに行くと決めていて、その時間までに家事を終わらせていると言います。私には全然分からない世界なんですが、運動って日課になると楽しくなったり、むしろやらないとムズムズするようになったりするらしく、ジムが習慣づくと行かずにはいられないので、そこに合わせて自ずと家事もルーティン化する、ということみたいです。あるいは犬を飼って毎日決まった時間に散歩するのとかもいいかもしれませんが、くらこさんのプロフィールによれば、なんでもアルバイト探し中とのこと。であれば、それが何より良いのではないでしょうか。決まった曜日、決まった時間に仕事に出かけないといけない、ということになると、自ずとそれに合わせて家事もルーティン化されるような気がします。

また何より、家の外に居場所を持つというのは精神衛生にも良いです。先にも申し上げた通り、家事って大変なのに全くその大変さが正確に認識されておらず、またやってもそんなに感謝してもらえなかったりします。だけど、自分が誰かの役に立っている、社会に貢献できているという感情がなければ、私たちの自尊心はたちまち萎れてしまします。ですので多少忙しくなっても、働くとか、あるいは趣味の教室に通うとかして、家の外にも自分の居場所を持ち、同僚や友人とのつながりを作る。そういうことが、今後も延々と家事をこなしていく上でも、また気持ちを健やかに保つ上でも、効果的に働いてくれるのではないかと思います。

イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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