くらし

【紫原明子のお悩み相談】夫の「今日も元気です」にイライラします。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。あなたもお悩みを投稿してみませんか?

<お悩み>
昨年、夫が重めの鬱病で休職し、その最中に朝から飲酒を繰り返したことで、もう一緒に住めないと判断しました。

即、夫を某リゾート地へ引っ越しさせ、ダブルインカム前提で購入した自宅を売却。幸い、物件の価格が上がっていたためローンも完済し、大小のトラブルはありましたが引っ越し・子どもの転校後の生活も落ち着き、少しはゆとりも出てきたのですが……。毎日メッセンジャーで「今日も元気です」と送ってくる夫にイライラします。

某リゾート地には、友人知人もいるので、彼らにまた会えるくらい元気になればいいなあと思って送り出したのですが、食事は摂れるようになったものの、まだ人には会いたくないようで、現在は夫の実家で義母に面倒をみてもらっている状況です。

義母によると、食事も食べられたり食べられなかったり、一日中眠っていたりとのこと。 もちろん友人に会ったりもできません。なのに「今日も元気です」というメッセージを送ってくるので、「全然元気じゃないじゃん!!!」とものすごくイラつきます。

病気は理解しているし、早く治ればいいとは思いますが、元気じゃないのに元気です、と送ってくるそこにピンポイントでものすごーく腹が立つのです……。 その日の状況をメッセージして、と言ったのは私なのですが、 「もうイライラするからやめて」と言っていいのでしょうか?
というより、なぜ私はその一言にそんなにイライラするのでしょうか。毎晩そのメッセージが来るたびにスマホをぶんなげたいくらいに悩んでます……。
(相談者:イライラマックスさん/鬱病で休職中の夫と別居中の45歳会社員。小学校3年生のこどもひとり)

紫原明子さんの回答

イライラマックスさんこんにちは。

早速ですが、イライラマックスさんがなぜそんなにイライラマックスになるのかということについて、私の率直な感想は、“そりゃイライラもするだろう……” です。

そもそもイライラマックスさんは、ダブルインカム前提でご自宅を購入されたと書かれていらっしゃいますから、最初は旦那さんにも収入があったんですよね。元気にお仕事をされていて、そんな旦那さんとともに生きるための家を、ともに生きるパートナーとして購入されたのでしょう。また、ともに協力して育てていこうというつもりで、お子さんをお持ちになったのでしょう。

ところが、たとえ裏切りや不貞行為が原因でないとしても、当初あてにできていた対等な協力体制が、あるとき突然あてにできなくなってしまったのです。一度は支え合おうというパートナーシップを結んだ相手に、一時的にとはいえ、以前のような支え合いを求められなくなってしまったのです。ふたりで背負っていこうと思っていた荷物を予定外にひとりで背負うことになって、それどころか、一緒に背負ってくれるはずだった旦那さん自身も、イライラマックスさんの肩に乗っかってしまったのです。それで、しんどくないはずがないと思います。

色んな事情を抜きにすれば “こんだけしんどいんだから、支えてくれよパートナー” と願って当然ではないでしょうか。そういう予定で一緒になったじゃん、と。でも、今はどうしてもそれを望むことはできない。そんなどうしようもなさが、無邪気な「今日も元気です」へのイライラという形で発露している、そんな風に私には思えます。

けれども、誰より旦那さんご本人が一番苦しんでいるということを、イライラマックスさんは十分にわかっていらっしゃるのでしょう。ご相談には、ただ理由も分からずイライラしてしまうということだけで、旦那さんへの恨みつらみはもとより、自分の苦しみについては一切書かれていません。なんと情に厚く、それでいて自分に厳しい方だろうと、胸が苦しくなるほどです。

どうか、たまには自分のしんどさを認めてあげてください。「こんなはずじゃなかったのに、なんで?」という問いは、決して旦那さんを責めるために発せられるものではなく、そんな定めを課してくる、どこかにいる神様に向けられて発せられたものです。だから決して、ないことにしなくて良いと私は思います。夫のため、あるいは子どものためという思いをたまには脇にやって、ご自身のことを考えてください。五感はちゃんと働いているか、三大欲求は正しく湧き上がっているか、朝起きたときにどんな気分になるか、そういったことを基準に、ご自身の疲労度や余力を、できるだけ客観的にみてあげてください。

 生きる気力を失ってしまった人を支える、生かし続けるって、言葉では言い表せないほど大変なことだと思います。これだけの負担を背負って本当によく頑張ってるねって、どうか定期的に自分を甘やかしてあげてください。

 ……と、ここまで書いてきましたが、これまでの旦那さんの窮地に、引っ越しや家の売却など、つど見事なまでに最善の対処を取られてきた超敏腕なイライラマックスさんですから、求めていらっしゃるのはもっと実用的なソリューションの可能性もなきにしもあらずです。ということで、「今日も元気です」にイライラしなくなる具体的な方法をひとつ考えてみました。ちょっと仕掛けが必要ですが、こんなのどうでしょう。

まず、スマートスピーカーを買って、旦那さんの家に送ります。

スマートスピーカーというのは、ご存知かもしれませんが、音声による指示でさまざまなアクションを可能にしてくれるスピーカーで、「音楽をかけて」といえば音楽をかけてくれますし、「今日の天気は?」と聞けばその日の天気を教えてくれる優れものです。これに、はやりのIOT家電を組み合わせれば「電気をつけて」や「エアコンの温度を5度下げて」などの指示ができるようになります。わが家にはGoogle homeというスマートスピーカーがありますが、「OK、Google、おやすみ」といえば、リビングとキッチンの電気を自動的にオフにしてくれるように設定しました。設定にはIFTTTというアプリを使うんですが、使い方そのものは結構簡単で、検索するとウェブにたくさん情報があります。

で、旦那さんの「今日も元気です」のメッセージを、毎回このスマートスピーカーに向けて発してもらうんです。その際に一工夫。「今日も元気です」を、IFTTTで音声コマンドとして設定。「OK、Google 今日も元気です」と旦那さんが言えば、自動的にイライラマックスさんに翌日のお天気情報がメールで送られてくるように設定するんです。そうすると、旦那さんが元気なことと、翌日のお天気が確認できて一挙両得!

あるいは、スマートスピーカーに加えて物理ボタンと呼ばれる機械を買うという手もあります。物理ボタンは外部からの指示を受け、人に変わってボタンを押してくれる機械なんですが、たとえばこれを炊飯器の炊飯ボタンに設置するとしますよね。その上で、旦那さんの「今日も元気です」をコマンドに物理ボタンが押され、炊飯が始まるよう設定します。すると、なんと旦那さんの元気が、イライラマックスさんとお子さんのホカホカ炊きたてご飯に直結するというわけです。

ふざけているのかと気分を害されたら大変申し訳ないのですが、私は大いに真剣です。人ひとりの力でもってやれることの幅を、最近のテクノロジーは結構ダイナミックに広げてくれます。ですので、もしよければこういった技術をたくさん使って、旦那さんが今日も元気でいてくれることで、何かしらプラスアルファのメリットがもたらされるような仕組みを作ってみてはいかがでしょうか。そうして、旦那さんが本当に元気になるまでのちょっとの間、イライラマックスさんとお子さんができるだけ幸せに過ごされることを、心の底から祈っています。なんなら私、ご自宅に設定しにいきますよ。

イラスト:クロワッサン編集部・どーなつ

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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