金魚は自分の入っている容器に合わせた大きさにしかならない――増井光子(獣医師)
文・澁川祐子
金魚は自分の入っている容器に合わせた大きさにしかならない――増井光子(獣医師)
創刊号よりはじまった、獣医師の視点から育児を考える連載。2回目は「伸びないキリンの子 体力不足の諸問題」と題し、近年、子どもたちの体力が落ち、たくましさに欠ける要因を野生動物と飼育動物の違いを切り口に考察しています。
獣医師の草分けである増井光子さん(1937-2010年)は、アフリカで野生のライオンを見た印象を<ウワー、肥ってる!>と綴ります。同じく野生のキリンも<重量感にあふれ、細いという感じからはほど遠く、逞ましい上体を支える足は、長くて丈夫だった>と描写しています。
一方、動物園のライオンの体は小さく、キリンの足は短いといいます。栄養を十分摂っている飼育動物が大きく伸びないのはなぜか。その理由として思いついたのが、金魚の例です。
<和金は広い池で飼うと、20cmほどにも大きくなりますが、小さい金魚鉢では、何年飼ってもそんなに大きくなりません>
つまり、広い空間のほうが大きく育ちやすいということ。加えて、野生動物の場合は広い草原で食物を探して歩きまわらねばなりません。ゆえに強くたくましい体に成長するというわけです。
そこから増井さんは、子どもたちが広い空間で存分に走りまわって遊ぶことの大切さを導きます。しかしいまに至るまで、状況は改善されるどころか、外遊びはますます減る傾向にあります。公園で遊具やボール遊びが禁止され、子どもの遊び場が減少する昨今、あらためて問い直したい言葉です。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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