くらし

【三遊亭兼好さん】お財布、見せてもらっていいですか?

  • 撮影・岡本 潔

印伝の長財布ふたつを交互に使ってかれこれ10数年に……。

落語家 三遊亭兼好さん

普段から着物生活となり、かれこれ10数年。その頃から使い始めたのが、この印伝の長財布。実は、同じような財布をもうひとつ持っている。
「お財布をすぐになくしてしまうんです。だから、ひとつがなくなっている間に使うために、もうひとつ持つようにして。交互に使っているから、あまり傷んでないのかな。8回はなくしてるけど、戻ってこなかったのは1度きり。飲み屋やトイレに忘れて、鍵も2回なくしているくらいそそっかしい。でも見つかるんですよ、いい国ですね。本当は財布が3つあったんですけど、ひとつは生き別れて、それっきりに」

存在感のありそうな長財布だが、着物の懐に入れているので、タクシーに乗ったときなど、するりと落ちてしまうのだとか。その際に助けてくれるのが、財布についている紐なのだ。
「紐は最近女房につけられちゃったの、あんまり落とすので。懐に入れるとき、帯に根付を挟んでおくと、紐が引っかかって、すとんと落ちることがないんです。でも、幼稚園児みたいでしょ」
着物姿に合わせたおしゃれな小物かと思いきや、根付には限りなく実用的な意味があったのだった。その根付はお客さんからのいただきもの。ひょうたんや鯛のかたちのものを持っていて、付け替えて遊んでいる。
「もともと物欲があまりないので、自分で買い物することもなくて。欲しいものがあれば作ったりしてます。たとえば、筆入れが欲しいと思ったら、買いに行くのではなく、ファイルを切ってホチキスで留めて使っていたり。薄くて使いやすいなーなんて。会社員時代から、欲しいものは買うよりも、工夫して自分で作っていました」

自らを安物買いの銭失い、買い物下手と称する兼好さんだが、日頃のお金の使い方は、噺家ならではのもの。
「噺家はお相撲さんと一緒で、ごっつぁん体質ですから。どこかへ行けば、なにか出てくる。お酒にしろお菓子にしろ、いただきものをすることが多いので、自分のために物を買うということはあんまりないですね」
地方に出かけることがあっても、おみやげを買うこともない。「私は皆さんが思っているよりケチである。見栄を張らなければならない後輩などがいなければ、決して高価な車内販売は利用しない」と、近頃出された随筆本にも書かれているが……。
「この仕事は見栄の商売なので。後輩にはお金を使います。たとえば食事の場に3人いたら、払うのは芸歴が一番上の人。だから、飲みに行こうかっていうのは、上の人からでないとなかなか言えない。若い頃は、相手から声をかけてもらえるように、先輩の横をうろうろしてみたりしましたね。お腹空いたなー、なんて言いながら」

後輩のためにまとまった額が必要になるから、普段はできるだけ無駄なお金を使わない。噺家ならではの価値観と美学がしっかり根付いているのだ。

鹿の革に漆で模様を描いた印伝は、使い込むほどに味が出て、しかも丈夫。紐の先に付けている根付は猫とネズミがモチーフになっている。着物で出歩くようになって、お客さんからいただくように。
鹿の革に漆で模様を描いた印伝は、使い込むほどに味が出て、しかも丈夫。紐の先に付けている根付は猫とネズミがモチーフになっている。着物で出歩くようになって、お客さんからいただくように。

三遊亭兼好(さんゆうてい・けんこう)●落語家。1970年、福島県生まれ。28歳で三遊亭好楽に入門。東京かわら版での好評連載をまとめた『お二階へご案内〜』が発売中。

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