くらし

『本のエンドロール』著者、安藤祐介さんインタビュー。「本は機械じゃなく人の手で作られるんです。」

あんどう・ゆうすけ●早稲田大学政治経済学部卒業後、2007年に『被取締役新入社員』で第1回TBS ・講談社ドラマ原作大賞を受賞して作家デビュー。以降、『おい! 山田』『営業零課接待班』など、お仕事小説を中心に手がける。

撮影・谷 尚樹 文・石飛カノ

本がどうやって作られているか、知られていないんですよね。付き合いの長い編集者のそのひとことが、安藤祐介さんの心を動かした。

「それまでは自分が原稿を書いて、装丁のデザインが決まって、後は本が出るのをただ待つ。そんな感じでした。でも四六判という事務用机と同じサイズくらいのでかい紙に印刷して、それを折って重ねて本が作られていることを知ったとき、これは面白そうだし、本を作る過程を物語にして知ってもらうというのは、とても価値あることだと思いました」

舞台は老舗出版社・慶談社の関連会社である豊澄印刷。登場人物は文芸書担当の熱血営業社員、その先輩の冷静沈着なトップ営業社員、現場を仕切る寡黙な製造係長、特色作製の熟練職人、元文学少女のDTP(デスクトップパブリッシング)オペレーターなどなど、決して表舞台に立つことのない黒子的スタッフたち。

無理難題を突きつけてくる編集者やデザイナーや大御所作家の意向を汲み上げ、誇りを持ちつつ奔走し、一冊の本に仕上げていく彼らの姿が連作短編の形で描かれる。

「足掛け3年の印刷所の取材で知ったのは、こんなにいろんな人の手が加わっているんだということ。入稿データをパソコン上でDTPにしてアルミ板の刷版を作って印刷機にセットしてでっかい紙を手積みでフィーダー(給紙部)にセットして。本は機械でできているんだろうと思っていたら、紙を移したりセットしたりするのは人の手。そこを間違えると大量の紙のロスに繋がる。だから相当に神経を使うということを知りました」

そうしたプロセスを描く一方、どうしても触れずにいられなかったことがある。紙の本の衰退ぶりだ。

「どう贔屓目に見ても、紙の本はこれ以上、上向いていかない。本を愛する人に読んでもらいたくて書いているのに、その本が廃れていくことを書かなきゃいけない。ちょっと怖いところがありました」

救いになったのは、取材現場で働く人々の姿だったという。

「現場の人たちは紙の本が廃れていくことを当然わかっています。でもそれに対して悲壮感を抱いているようには見えない。楽しそうに仕事をされているんです。大きな声で“紙の本はもうダメだ”と言うのは外部の人たち。現場の人たちはそれを承知で、でも本を作るのが好きだからこういう仕事をしているんだろうと。すごく心強かったし、自分も本作りの初期工程を担っているんだと感じました」

講談社 1,650円

『クロワッサン』977号より

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