「現場の空気感を知っているから書けるというのはあると思います。諏訪野のように軽い感じで親しみやすい医師って、実際に若い医師に多いんですよ。喋り方などを観察して取り入れたりもしました」
医師が描く医療小説というと、難解なものを想像して尻込みしてしまう人もいるかもしれないが、心配は無用だ。
「僕の小説は読者が幅広くて、ありがたいことに下は小学校高学年の子たちも読んでくれている。だから、彼らが完全には理解できなくても、なんとかついていけるくらいの塩梅を心がけています」
最終話では、循環器内科で心臓に病を抱える少女に出会い、諏訪野は初めて命に関わる問題に直面する。読者は彼の心の揺れに共感しながら、物語に引き込まれていくことに。医師ではなく、より一般人の感覚に近い研修医を主人公に据えた効果と言えるだろう。
「一人の患者にどのくらい労力をかけるべきか、助からない患者とどう向き合うべきか。研修医は、過酷な現実を目の当たりにして、自分の気持ちに折り合いをつけなければならない場面に何度も遭遇します。読者の方にも、諏訪野と一緒に悩んだり考えたりしてもらえたら。そして、医師目線の病院の実情を知ることで、少しでも医療に対する不安や不信のようなものがなくなればうれしいですね」