『父・横山やすし伝説』著者、木村一八さんインタビュー。「親父は寂しがりやで“心配しい”だった。」
撮影・中島慶子
〈親父は芸人だったから、一般の人とは違う。しかし、僕から見れば、親父は根暗だったし、酒だって弱かったし、暴力だってほとんど振るったことがない〉
破天荒な言動とともに、天才漫才師としてお笑い界に君臨した横山やすしさん。亡くなって22年。
長男で俳優の木村一八さんがまとめた本書は、冒頭記した言葉のように、“やっさん”の愛称で親しまれた横山さんとは異なるエピソードが数多く綴られる。
「子どもから親父という目線だけではなく、同じ働く男としての目線でも描きたかったんです。それには月日が必要でしたね」
横山家の“ルール”はかなり変わっている。たとえば、殺人より嘘のほうが悪い。なぜなら殺人はやむにやまれぬ理由があるのが大半だが、嘘は自己防衛でつく場合がほとんどだから許さん、と横山さんは木村さんに話した。
「子どもは悩みますよ。なんじゃそりゃ、ですよ(笑)。でもすべての言葉に本音が入っている。現実論として、矛盾があるのが世の中だともよく言っていました」
打算で人と付き合うな、性格を変えたかったら環境を変えろ……。紹介される横山さんのルールと、その言葉を物語る出来事は、身内だからこそ知り得るものだ。
「親父は本気で張り合うんです。子どもと思っていない。中2の時に、僕の不注意な行為を咎めるお母さんともめて暴言を吐いてしまったんです。それが親父にも知れて、呼び出されたんですが、その時に言われたのは、“誰のオンナにケンカ売ってるねん? お前メシ食わせてもろうて、学校行かせてもろうて、雨風しのげて、文句あるなら出てけ!”でしたから」
その反面、寂しがりやで“心配しい”でもあった横山さん。木村さんの修学旅行先である広島の宮島に、「よっ! 一八、元気か。ちょっと通りかかったんで来たったわ」と偶然を装って現れたり、自家用セスナで木村さんがいる福岡まで迎えに来たりもする。
「親父の思いは極端すぎるんです(笑)。ただ親父は子どもの僕と妹の雅美とは7年間別々に暮らしていたので、家族愛が人一倍強かったんだと思います」
48歳になる木村さん。51歳で亡くなった横山さんと自分を重ねることも多いという。
「親父は本来のキャラと世間が作ったキャラを融合しながら、命を削って仕事をしてきた。その苦労を見ているので絶対的な尊敬に値する人ですね。この歳になって親父の父親としての気持ちがわかるようになってきました」
宝島社 1,380円
『クロワッサン』978号より