くらし

鹿児島の風土と人の手間が、麹と玄米を滋味豊かな黒酢に育む。

  • 撮影・清水朝子

健康と美をもたらす黒酢と暮らす、産地・福山町の人々の日常。

左から、熟成1年、2年、3年の黒酢。熟成1年くらいだと、お酢らしい酸味が強く感じられる。3年が過ぎると、やわらかい風味に。

そもそも、黒酢の定義とは何であり、他の酢とは何が違うのか。黒酢の魅力にふれる前に、まずは基本を知っておきたい。農林水産省のJAS規格によると、現在、食酢のほとんどは「穀類や果実、野菜などの原料を酢酸発酵させて製造した醸造酢と呼ばれるもの」のことを言う。主な原料として穀物と果実の2種類があり、穀物酢は米や大麦などの穀物を使用したもの。黒酢は穀物酢に属し、発酵・熟成の過程で褐色または黒褐色になったものを言う。しかも褐色なら何でもいいわけではなく、JAS規格で酸度、全窒素分、着色度の基準が定められており、“黒酢”になるのは狭き門だ。

「かめ壺の中で起こる蛋白糖化反応“アミノカルボニル反応”によって液体が褐色や黒褐色になります。発酵がなぜ壺の中で自然に進むのかは、まだはっきりとはわからないところが多い。大学などと共同で研究を進めている企業も増えています」(坂元淳二さん)

仕込み後のかめ壺はどうなるか。仕込み後2週間が経過。蓋麹が菌糸を伸ばし、綿のような層ができている。甘酒のような甘い香り。
仕込み後1カ月が経過。蓋麹が沈み、酢酸菌膜が張った状態。膜が雑菌の侵入を防ぐ。

疲労回復に食欲増進。黒酢は夏のお守りに。

一般的な黒酢と他の酢とのアミノ酸換算の比較。健康のためにアミノ酸を摂りたいなら、お酢の中でも黒酢が最適とわかる。(テスト期間平成16年11月〜平成17年3月)

では、なぜ「黒酢は健康にいい」ともてはやされるのだろう。その秘密は、アミノ酸にあった。人間の身体のタンパク質を構成しているのが、アミノ酸。黒酢には、アミノ酸が米酢の2倍以上含まれており、体内では作ることのできない必須アミノ酸も多く含まれている。ゆえに疲労回復をはじめとした様様な効果が期待できるのだ。さらに2010年に、資生堂の研究により重久盛一酢醸造場の黒酢­は、他社のものと比べて美容成分、D-アミノ酸が非常に豊富であるということが判明した。杜氏の誰もが、年齢を聞くと驚くようなツヤツヤの肌をしている。それも黒酢の効果なのかもしれない。ほかにもクエン酸や有機酸、ビタミン、ミネラルなど、健康には欠かせない成分がたっぷりと詰まっている。

また、料理においても黒酢は様々な効果をもたらす。まずは夏に心強い殺菌効果。いつものおかずに使うと長持ちするのはもちろん、ラッキョウ漬けやきんかん煮などに使うと、冷蔵庫で1年以上保存することが可能になる。肉を柔らかくし、魚の臭みをとる効果も。魚を酢洗いするのは、その効能から生まれた知恵だ。主菜副菜問わず、味付け以外においても頼れる調味料と言える。
「黒酢なので料理に入れると食材に色がつく場合があるのが、難点といえば難点。気になる人は、色鮮やかな食材を使ったり、調理時間を短くするとよいかもしれません」(重久盛一酢醸造場社長・重久雅志さん)

壺畑には、貴重な30年ものが! もはや半分埋まった状態のこのかめ壺が仕込まれたのは、なんと30年前。特別に見せてもらった。大きく重い蓋を2人で持ち上げる。
見たことのないほど濃い琥珀色の液体は、お酢とは思えないくらいに芳醇な香り。そのまま飲めそうなほどまろやかだ。
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