くらし

【紫原明子のお悩み相談】別居のやめどき、離婚のタイミングがわかりません。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。あなたもお悩みを投稿してみませんか?

<お悩み>
別居のプロ(?)紫原さんにご相談。別居の止め時(離婚のタイミング)とはいつが適当でしょうか?

夫の不倫(継続中)が原因で子ども二人を連れて実家に戻り別居生活4年目。経済的なメリット(婚姻費用、校正証書作成済)と面会の継続性(夫に新しい家庭ができたらそちら優先になる?)を考え離婚はせず別居に甘んじ、ずるずると(まるで不倫の様に)今に至ります。

夫に対して全く恋愛感情はなく、子どもが求める限り親でいてくれればOK。私は子育てと仕事に忙しく同居で肩身も狭いので恋愛する暇がどこにあるか馬鹿野郎な状態(よって2次元及びアイドルでガソリン注入。妄想のネタは子どもが通う園のイケメン保育士達のBL展開)。ちなみに娘は「ママとパパは本当は仲良いんでしょう?」というファンタジーを抱き、”家族”での行動はうれしい様子。

夫は一時期強硬に離婚してくれと言ってましたが最近は諦めたのか言ってきません(ちなみに不倫の証拠はばっちり押さえたので調停や裁判での立証は楽勝ですが夫が調停を望んでいません)。以上よろしくお願いいたします。
(相談者:おさぼり大臣/外資系の事務をしている30代の会社員です。保育園児と小学1年生のこどもが二人います。)

紫原明子さんの回答

おさぼり大臣さんこんにちは。大変恐縮なんですが、私の歯の話を聞いていただけませんか。

私、ストレスや疲れで歯茎がすぐ腫れてしまうんです。腫れて、炎症を起こして、たまにある瞬間から薬も効かないくらいの、猛烈な痛みに襲われます。

歯医者さんに行くと、まずはレントゲンを撮られます。レントゲン写真を見た歯医者さんはきまって“うーん、虫歯ではなさそうだけど”と悩んで、私に言います。“神経は歯の柱みたいなものだから、できることなら炎症がおさまるまで薬を飲みつつ我慢して、神経そのものは残しておくのがいいんだけど”と。“神経を抜いた歯は次第に黒く変色していくし、脆くなって欠けたりすることもあるよ、どうする? それでも神経とっちゃう?”と。でもやっぱり、ただならぬ痛さだということは自分が一番よく分かっているので、やってください、とお願いするんです。そうしていざ一通りの治療が始まると、実は神経はすでにひどい炎症により溶けてしまっていたので、結果的には取ってよかったと言われます。

もし神経の炎症を長く放置すると、痛みが収まってもじわじわと炎症が広がり骨まで溶けてしまったり、歯が変色したり、歯の根の方まで割れてしまい、最悪の場合には抜いて、インプラントにしなければならなくなるそうです。ちなみにその場合、私の通っている歯医者さんでかかる費用は60万円とのこと。

肝心な痛みを感じるのは自分だけで、その深刻さは、他人が外から見てもすぐにはよく分からない。よし、神経をとろうと決意して、お医者さんが蓋を開けてみて初めて、こんなに深刻だったんだとわかる。

私はそんな歯の神経のトラブルが、夫婦関係にすごく似てるなと思うんです。

早いうちの治療が功を奏せば神経を残すことだってできただろうけど、結果的にそれができなかったことについて、その原因はこれだと特定することも簡単にはできない。思うに私の場合は、ちょっと慢性的に血行が悪かったりだとか、歯ブラシの仕方が下手だったりとか、またもともとの体質とか、色々な状況が絡み合ってそうなったんだろうというところです。

夫婦関係も同じじゃないですか。たとえば夫が浮気したとなれば「あ〜あの奥さんにはちょっと色気が足りないからね」とかふざけたこと言う人もいますけど、名だたる女優達の夫だって浮気しますから。あっちが足りないからこっちで補うとか、そんな単純な話じゃないんですよね。

歯の場合、悶絶するほど痛いときを通り越したら神経が死んで傷まなくなります。夫婦の場合も、別居して、そんな暮らしが安定して、離婚してもしなくてもどうでもよくなっちゃった状態っていうのは、多分もう神経が死んでるんだろうなと思います。だからって放置しておくと、先に述べたとおり痛みのないまま炎症が進んだり、骨が溶けて大事になったり、歯が突然砕けて余計な出費がかさんだり……そんなことが、夫婦間にも起こらないとも言い切れません。なのでもうこの際、ちゃちゃっと神経、とっちゃったらどうですかね。

特にお子さんを連れての離婚には、どうしてもその後の生活のリスクを伴いますが、おさぼり大臣さんはその点、バッチリ準備されているとのこと。本当にご立派です。忙しい毎日にありながら、自分を潤わせることを忘れていないというのもつくづく素晴らしいなと思います。旦那さんに対して恋愛感情が全くないというのも、きっと嘘偽りないお気持ちなのだろうと思います。……が、であれば、家庭の中では子どもの良いパパ・ママでありながら、愛情や恋愛についてはお互い勝手に外注する、そういう協力体制のもとで結婚生活を、同居を続けるという可能性もあり得たはずです。けれどもそうならなかったというのは、おそらく実務的な事情もさることながら、一度は発生した恋愛の残骸、執着という細菌が、いまだ死に切れていないせいなのではないか、という風にも感じます。

離婚後、旦那さんに新しい家族ができた場合にそちらが優先になるのでは、ということを心配されていらっしゃいますが、一般的な倫理観で優先するべき家族を優先せず、離婚を求めてきたのが現在の旦那さんですので、新しい家族ができたからって、一般的な倫理観で新しい家族を優先するとも限りませんよ。

おさぼり大臣さんは、お子さんの良いパパでいてもらいたいと望んでいらっしゃると思います。そして旦那さんの方は、良くも悪くも自分のやりたいことを我慢できず、行きたいところに行こうとする人なんだと思います。であれば、何より真っ先にやるべきはやはり、関係性を健全化することだと思います。

おさぼり大臣さんとお子さんのいらっしゃる場所を、旦那さんにとって二度と寄り付きたくない場所にしてしまうというのは、ちょっと悪手です。これまで旦那さんが子育てにどう取り組んでこられて、どこまで誠実だったのかわかりませんが、役割を明確にすれば関係性も健全化するし、関係性が健全化すれば少なくとも、おさぼり大臣さんとお子さんのいる場所が、怖い場所ではなくなります。すると、親子関係も維持しやすくなるのではないでしょうか。

そもそもですが、おさぼり大臣さんのように、自分の状況を冷静に、明るく打ち明けることができて、なおかつ子育てと仕事の合間に粛々とやるべきことをこなせる素晴らしい方を平気で傷つけるような人に、いつまでもパートナーの権利を与えておくのって、ものすごくもったいないことだと私は思います。猫に小判、豚に真珠です。おさぼり大臣さんのパートナーでいられる権利ってプラチナチケットですよ。価値のわからない人からはとっとと剥奪して、きちんと価値のわかる人に届けてあげましょうよ。どこかで誰かが待ってますよ!

私の友人の離婚する主婦たち、みんな最初は口を揃えて「もう恋愛とかはいい」って言うんです。ところがいざ離婚すると、あれ? ってことになることもよくあるんです。いや、もちろんそれがすべてではありませんが、シングルになられたあかつきにはぜひ、シングルの特権を堂々と活用してください。ご自分も、お子さんも。あのときは辛かったが結果的に良かった、と思える離婚をされてください。陰ながら、おさぼり大臣さん親子のご多幸をお祈りしています。

イラスト:クロワッサン編集部・どーなつ

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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