くらし

【紫原明子のお悩み相談】過去の過ちが原因で人付き合いに自信が持てません。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は過去のコミュニケーションの失敗がもとで、人付き合いに自信が持てない女性からの相談です。

<お悩み>
過去の過ちが原因で人付き合いに自信が持てません。
以前、SNSで自分に対して言及されたことが原因でいざこざが起きました。正直、自分のコミュニティ内で起きた出来事。自分に非がありました。とはいえ言及された内容は誤解だらけのこと。しかしながら明らかに私だと分かるその内容。そもそもあまり私のことを知らないで直接コミュニケーションを取らず語る姿勢に腹を立てて彼女の創作物を非難したのです。
しかし、これでは同じことをやり返しただけ。その話は向こう側の視点の話で広がっていき、弁解の余地もなくなってしまいました。私はコミュニティを失い、自分の居場所を得たい為に仕事に没入し、2年前に独立しました。
しかしこの出来事が原因でやはり人への不信感や自分が実は誤解されることをしたり、人を不快にさせるのではと感じて人付き合いを広げられません。本当に何をしてもどんな結果を出しても自信が持てません。
子どももいて幸せな家庭もある。それなのに誰にも信頼されないのでは、と孤独です。やはりちゃんと失ったコミュニティに対して向き合うべきでしょうか?  その相手に謝るべきでしょうか。でもそれは私のために謝ることになります。それが良いのかわかりません。
今私がどうすれば良いのかご教授いただければ嬉しいです。 (相談者:パンだふる/女性。30代、1歳と3歳の2人の子持ちのワーキングマザー)

紫原明子さんの回答

パンだふるさん、こんにちは。
過去のコミュニティで辛いことがあったんですね。

具体的なことはわかりませんが、パンだふるさんにとってそれがとても大きな出来事だったということはひしひしと伝わってきました。

独立されたのが2年前ということは、コミュニティで出来事が起きたのはそれよりもっと前ということなんですね。たしかにそれだけ時間が経っていると、諍いのあった相手に「あのときはごめんね」と連絡するのも少し唐突な印象があるかもしれません。またご相談を拝見していると、必ずしもパンだふるさんが一方的に相手を傷つけたとは言えないようにも読めます。だから、謝罪が適切かどうかというのは少し考える必要があるかもしれません。

たとえば自分が誰かを深く傷つけてしまって、その罪悪感に自分もとらわれているし、何より相手が苦しんでいるというようなときは、相手のためにこそ、心からの謝罪や償いが必要だろうと思います。けれども必ずしもそうとは言えないとき、自分の心を救うために相手を利用することで、本当に自分が救われるかというのは難しいところです。詳細がわからないのでこのどちらであるかを言うことはできないのですが、いずれにしてもパンだふるさんは、過去のその出来事に、やり残したことや言い残したことがあると感じていらっしゃるんですね。

私は、自分を囚え続ける過去の出来事の中には、自分が未だ理解しきれていない自分、未だ消化しきれていない自分、でも、本当は理解し、消化されたがっている自分が置き去りにされているのかもしれない、と感じます。そして過去を乗り越えるというのは、そうやって置き去りにしてきた自分を理解し、消化することで、今に連れてきてあげることなのかもしれないな、と。

いただいたお手紙を拝見する限り、パンだふるさんの過去の出来事にはさまざまな要素が絡み合っているようです。誤解されたこと、自分のことをよく知らずに非難されたこと、相手に同じことを仕返したこと、仲間たちが自分を信じてくれなかったこと、他にも、書かれていないことがきっとありますよね。一連の出来事の中で、パンだふるさんを特に深く傷つけたものって何だったんでしょうか。謝罪したいということは、相手の創作物を非難し、傷つけてしまったことに罪悪感があるんでしょうか。あるいは、謝罪することによって再びもとのコミュニティに戻りたいという願いがあるとすれば、コミュニティを失ってしまったことへの心細さ、寂しさが強くあったんでしょうか。ひとつひとつを思い出したとき、一番胸がチクッとすることってなんでしょうか。自分がどういうことに弱いのかということがもう少しピンポイントでわかると、今より具体的に対策を打てるようになるかもしれません。

たとえば自動車の事故に自損事故とそうでないものとがあるように、人生におけるトラブルにもきっと、何かしら自分の行動が影響して起きているものと、そうでないものとがあると思うんです。で、過去の出来事の中に、もし何かしら自身の「過失」あったとして、その振り返りが不十分であるとすれば、それから後にもきっとまた何らかの形で、似たようなトラブルが自分の身に降りかかるだろうと思います。「過失」をもっと詳細に言うと、自分が無自覚に陥りがちな思考や行動の癖、です。だから、自分の傷ついた心と向き合うと同時に、なぜそれが起こってしまったのか、自分のどういう性分が影響しているのかといったことを、客観的に考えられてみると、漠然と自分を縛る自信のなさから、少しは救われるところもあるかもしれません。

これに加えて、その過去の出来事が、現在のパンだふるさんにとってどういう影響を与えたものかを長い時間軸で俯瞰してみる、ということも必要です。今はまだ心の傷が癒えないとおもいますが、とはいえすでに、そのショックな出来事がきっかけとなり独立まで果たされたわけですよね。その経験がなければ踏み出していなかった道を、パンだふるさんは歩まれているということですね。この先さらに5年、10年と経ったとき、どんなことが起きていると思いますか?

後々振り返ったときに、あの出来事は、自分をここに連れてくるために必要不可欠な出来事だったのだ、と思えるようにすること。それが、もしかしたら唯一、過去に置き忘れた自分を救い出せる方法なのかもしれません。ですから謝罪や反省よりも先に、その出来事が自分にもたらした意味、そして今後もたらすであろう意味を、ぜひ一度じっくりと、考えてみられてはいかがでしょうか。

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イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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