「自分としても、わかりやすく読みやすくしたいと、いちばん気をつけました。クローズドサークルという言葉も、ミステリファンでなければ珍しい言葉ですから。探偵役だけれどミステリには詳しくない剣崎比留子が、ミステリ愛好会の葉村譲に教えを請う形で解説したり、葉村も自分のミステリ知識からこの状況はどう解釈できるのか、まるで読者に道筋を立てるかのようにふるまう。つまり、話をわかりやすくするために、葉村の言葉を僕は借りています。“僕”対“読者”にしたくなかったんです。読者を混乱させればこちらの勝ちではなくて、ちゃんと手がかりも書き、半分以上は真相がわかるようにと心がけました」
おかげでミステリ初心者も楽しめる。同時に、ミステリ好きが驚く展開も待ち受けて。
「たとえば、探偵というと、事件に踏み込んでいくのは当然で、自分は危害を加えられないと確信しているかのようにふるまうし、読者もそれを当たり前のように受け入れていますよね。そこがちょっと……。探偵も油断しているし、読者も油断していませんか?」
確かに! ということで本書には、ふたつの探偵像が登場する。
「事件に興味を持っていて謎解きをしたがる王道の探偵と、事件には本当は関わりたくないのに関わらざるを得ない探偵像を用意して対比させています」