『屍人荘の殺人』著者、今村昌弘さんインタビュー。わかりやすく斬新な新感覚ミステリの登場。
撮影・森山祐子
大学のサークルの夏合宿で訪れたペンションで起こる惨劇という、ミステリとしては古典的な設定なのだけれど、これがとんでもない特殊な展開を繰り広げ、ぐいぐい引き込まれる。未発表の長編推理小説を募る鮎川哲也賞の受賞作である本作は、新しい発想の本格派が登場と審査員も絶賛。ペンションに集まった男女は、“クローズドサークル”と呼ばれる道路の遮断や天候などで事件現場から出られない状況に追い込まれるのだが、まず、このクローズドサークルの原因が度肝を抜く。さらに、その原因もからんだ密室事件が起こり、クセの強い多くの登場人物の誰が犯人なのか、謎解きが始まる。血みどろの殺人の起こる複雑な話なのに、楽しく軽く読み進められるのは、作者である今村昌弘さんの持ち味のようだ。
「自分としても、わかりやすく読みやすくしたいと、いちばん気をつけました。クローズドサークルという言葉も、ミステリファンでなければ珍しい言葉ですから。探偵役だけれどミステリには詳しくない剣崎比留子が、ミステリ愛好会の葉村譲に教えを請う形で解説したり、葉村も自分のミステリ知識からこの状況はどう解釈できるのか、まるで読者に道筋を立てるかのようにふるまう。つまり、話をわかりやすくするために、葉村の言葉を僕は借りています。“僕”対“読者”にしたくなかったんです。読者を混乱させればこちらの勝ちではなくて、ちゃんと手がかりも書き、半分以上は真相がわかるようにと心がけました」
おかげでミステリ初心者も楽しめる。同時に、ミステリ好きが驚く展開も待ち受けて。
「たとえば、探偵というと、事件に踏み込んでいくのは当然で、自分は危害を加えられないと確信しているかのようにふるまうし、読者もそれを当たり前のように受け入れていますよね。そこがちょっと……。探偵も油断しているし、読者も油断していませんか?」
確かに! ということで本書には、ふたつの探偵像が登場する。
「事件に興味を持っていて謎解きをしたがる王道の探偵と、事件には本当は関わりたくないのに関わらざるを得ない探偵像を用意して対比させています」
思いがけず少ししか出てこないキャラクターも個性的で魅力的だから、スピンオフも読みたくなる。
「現在は続編を書いていますが、さかのぼった事件のほうもいつか手がけたいですね」
ネタばれするので、本当におもしろい部分は読んでみるしかない。新感覚の娯楽をぜひ体験してみて。
東京創元社 1,700円
『クロワッサン』972号より
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